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小川沿いの並木道をゆっくり歩きながら
雑貨屋さんを見たり、
お散歩中のわんちゃんに手を振ったり、
その間も繋いだ手は離れないまま。
すれ違ったおばあちゃんに
『お似合いのカップルやねぇ』って声をかけられたのを
2人して曖昧にやり過ごした後、正門がぽつりと。
良「……1個、聞いてもえぇ？」
いつもより静かなトーンに
指先にきゅ、と力が入った。
「……何？」
良「……大晴と、あの時何があったん？」
「あの時って？」
良「新セクの顔合わせの時。
あん時、泣いてたやろ」
「……それは、」
どこまで自分の感情を曝け出していいんだろう。
慎重に言葉を選ぼうとするけど、
結局、自分のエゴが浮き彫りになるだけで。
何より、
正門に今更取り繕うものなんて何もないクセにって
呆れた笑みがこぼれたから、
浮かんだ気持ちをそのまま言葉にすることにした。
大晴くんに告白されて返事を待ってもらってたこと。
その間に酒寄くんの事があって、
自分には大晴くんと付き合う資格がないと分かったこと。
「……もう、大晴くんには触れられないと思った。
だけど、本当は触られたくなかったのは私の方で。
汚い私を大晴くんに軽蔑されるのが、怖かったの」
向かい風が足元を冷たく通り過ぎていく。
『大丈夫？』って言葉の代わりに手を握ってくれる正門に
軽く頷いてみせる。
「距離を置きたかった。
でも演劇部を辞めてほしくもなかった。
だから、役者セクションで大晴くんの名前が呼ばれた時、
本当にほっとしたの。
『よかった、演劇続けてくれるんだ』って。
だから、……まさか脚本にも残るなんて思ってなかった」
―『頼って』とかほんま、何も知らんかったクセにって―
そんな台詞、言わせたくなかった。
今の私を好きになってくれた大晴くんの気持ちを
私は、裏切ったのに。
―これからも“えぇ先輩”ってことで、―
「あの時、大晴くんは何かを諦めた
その“何か”を諦めさせたのは、間違いなく私だから、
それが申し訳なくて、」
あの日から、大晴くんとの間には透明な壁があるみたいで。
脚本の話とか何でもない話をする時も、
その壁が透けるたびに胸が苦しくなる。
「全部、私のエゴなのにね……」
重くなり過ぎた足を止めて俯いたら、
正門の手が頭に乗って
ぽん、ぽんってゆっくり撫でられた。
良「……結城は、汚なくなんかないで」
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作者名：マリア | 作成日時：2023年12月1日 22時
