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良「おっ、思ってたんより空いてる感じちゃう？」
「ね、やっぱり時間帯がよかったのかも」
受付の列に並びながらこそこそと始まる作戦会議。
良「結城は音声ガイド借りるんやっけ？」
「うん、正門は？」
良「そぉやなぁ……、悩むけど今回はパスかな。
説明もじっくり楽しませてもらうわ」
「ふふ、学芸員さんが喜ぶと思うよ。
じゃあ、物販のところで待ち合わせでいい？」
良「おっけ。寂しなったらそこのカフェでお茶してるな」
「分かった。待たせたらごめん」
良「えぇよ。ゆっくり楽しんでおいで」
「ありがと、」
一緒に美術館へ行くとありがちな時間の問題は
正門とならあまり気にしなくてよさそうだからほっとした。
1人でもそれなりに楽しんでくれるだろうなって
そういう信用がおける相手って案外いないから。
良「ほんなら、また後で」
ガイド貸出の列に並びながら正門を見送ったら、
「……よし、」
自然と気持ちが切り替わっていく。
ヘッドフォンをつけて周りの音を断ち切ったら
目の前の絵画と自分だけの空間に包まれて。
作品の持つ雰囲気や描かれた背景に物思いをしてる時間は
どこか物語を考えてる時の感覚に似てる。
そう思ったらふいに、
大晴くんとそういう話がしたかったな、って。
絵から視線が逸れて、
無音のヘッドフォン越しに人の気配が流れ込んでくる。
……まだ、大晴くんの事引きずってるんだ。
自分で望んだことなのに
勝手に傷ついてる自分に嫌気がして
無理やりもう一度絵画に向き合うけど、
不思議と胸がドキドキしてこない。
いつもよりあっさり次の作品に目移りすることに
もどかしさを感じてたら、
ぽんぽん、
遠慮がちに肩を叩かれて振り返ったら、正門がいて。
良「……？」
「え？」
口パクだけじゃ分からなくてヘッドホンを外したら、
「あらら、外させてもうた」って
くすくす笑う正門の声がはっきり聞こえた。
「もう一周しちゃった？」
良「うん。やけど一緒に観たいなぁと思って戻ってきちゃった」
そう言いながらしれっと指先を絡めて微笑んだ正門は
多分確信犯で、
「……しょうがないな、」
なんて言いながら離す気がない私も共犯で。
良「これ、どんな気持ちで描いたんやろな」
「確かこの頃は……」
繋いだ手の温度を共有するように
絵画を観るのも悪くないなって
真剣に魅入ってる正門の横顔を盗み見ながら、こっそりドキドキした。
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作者名：マリア | 作成日時：2023年12月1日 22時
