・ ページ36
・
トーンを落としてそう言ったまなっさんに
お風呂あがりの手はちょっと汗をかいてて。
「もぉ、怖い言い方やめてや(笑)
今夜眠れんくなったらどうしてくれるん？」
眞『怖がってないでしょ、正門君だもの』
「ははっ、とんだ悪い男に仕立てられてもうて(笑)」
眞『だって正真正銘悪い男じゃない。
それでいてズルくて、弱虫』
「……今日はえらいハッキリ言うやんけ。
何かイヤなことでもあったん？」
眞『別に。常々思ってることを言っただけ。
それが嫌いとかやめてほしいとか
そういうつもりはまったくないから。
むしろ、だからこそ“正門良規”って役者が好きだったりするし』
「……役者だけ？」
眞『ほら、そういうところがズルいって言ってるの』
「あらら、」
そう言い返されてもうたら、迂闊に次の言葉は続けられへんくて。
スマホを耳に当てたまま
立てかけてあるギターの弦を軽く弾く。
電話終わったらちょっと弾こうかな。
眞『……学祭公演のこと、キク子から聞いた』
弦をいじる手が止まる。
眞『正直、今更あの根腐れ野郎が何したって
演劇部には何にも影響はないと思ってるけど、
ユキはそうじゃないでしょ？
かなり落ち込んでたって言ってたし、正門君が傍にいたことも聞いてる』
敢えて言葉を返さへんまま、次の台詞を待つ。
眞『……いい加減、ユキとちゃんと向き合ったら？
ユキは確かに弱いけど、
弱いだけのお姫様でもない。
『欲動』の脚本であれだけのことやってるんだもの。
正門君のことだって多分』
「理解ってるのと受け止めるんは、また別の話やろ」
言葉の続きを遮って吐いた台詞は
自分の中での決まり文句で。
自分で言うたクセに自分で嫌になって
意識してひっこめた溜め息の代わりに
まなっさんがおっきく息をついた。
眞『……ほらね、弱虫』
「……そうやな、自分でもよぉ分かってるわ」
眞『ごめん、そろそろ出なきゃ』
「そっか、わざわざありがとう。またかけて？」
眞『そうね、今度は楽しい話しよ。
お酒でも飲みながら』
「あは、えぇなぁ。朝からボトルもあり？」
眞『あり(笑)』
「やった(笑)」
眞『それじゃあね、また』
「おん、学校頑張って」
ぷつ、と切れた電話の黒い液晶に映るのは
また虚ろな顔した自分で。
「……よぉ分かってんねん」
部屋の片付けもギターも全部やる気なくなって
ベッドに転がったら、そんまま目を閉じた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 238人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：マリア | 作成日時：2023年12月1日 22時
