・ ページ4
・
正門がぽやってるとこがあるんは俺らも分かってるし
その所為かたまにヤバいこと口走ってる時もあるけど、
所詮は『サイコパスや！』って笑ってイジれる程度であって
“正門は常識人”っちゅう共通認識みたいなんがあった。
なのに、『欲動』の時の正門は
一瞬、今舞台上におるのが正門か役かが分からんくなるくらい
芝居に気持ちが乗ってて。
何より、その脚本をユキが書いたってことを改めて考えたら、
じわじわと背中がむず痒くなってくる。
ユキが正門に向ける感情と
正門がユキに向けてる感情の湿度が
『欲動』には出てたんかもしれへん。
もし、それすら分かってて芝居に昇華してる言うんなら
ほんまに2人とも“演劇バカ”や。
良「……結城のことは同期として、
強いて言うなら、あの子の脚本の1ファンとして、
結城が何も心配せんと脚本が書ける環境を守ってやりたいと思うてます。
本人に真実を伝えたんは荒療治やったかも知れへんけど、
俺は、傷ついた結城をほっぽり出すようなことはせぇへんから。
……別に、そこに欲をかいた訳ちゃいますよ？」
不自然なくらいいつも通りの笑みを浮かべた正門が
末澤の痛いくらいまっすぐな視線を一蹴する。
こう見ると、
この2人ほんまに正反対やねんな。
じりじりと見つめ合う2人を横から静観しながら
ぼんやりそんな事考えてたら、
先に折れたんは、末澤やった。
誠「……そうか。ほんならそういう事にしとくわ」
小さく息を吐いて腕組みを解いたら
くっと顎をあげる。
誠「正門、ユキのことだけちゃうけど
あんまこそこそするような事は止めぇや。
もうお前が部長になんねん。
部長がどんと胸張ったらな後が安心してついて来れへんやろ」
あくまでまっすぐ、納得してへん感情まで見せながら
それでもストレートに言葉を伝える末澤は
3年間、ずっと変わらんかった横顔で。
あぁ、こいつと演劇やれてよかったなって
こんな時なのに急にそう思った。
誠「正門……、任せてえぇんよな？」
もう一度目を合わせながら末澤が尋ねる。
そん時初めて、正門の瞳が少しだけ揺れた。
けど、瞬きをしたら小さく頷いて、
良「……はい、ちゃんとバトン引き継ぎます」
誠「……頼んだで、」
パンッ、
強く正門の肩を叩いて顎を引いた末澤は
少しだけ、唇の端を震わせてて。
それを見た俺もちょっとだけ鼻の奥がツンとした。
あぁ、俺らの1年が終わるんやなって。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 238人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：マリア | 作成日時：2023年12月1日 22時
