キミに恋するワンシーン！第9章！ (ページ29)

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どこか観客目線で観てたワンシーンが

急に生々しい現実を突きつけてきて、

ドキドキが一気にドクドクする鼓動に変わった。

酒寄さんが正門先輩に言った“王子サマ”は

私が正門先輩に感じる“王子さま”とは全然違う。

―裏で女食いまくってるクセして、―

だって、そんな正門先輩知らないもん。

正門先輩はいつも優しくて、

本当に王子さまみたいな人で。

私の動揺を待ってくれる訳もなく、

酒寄さんの独白は続く。

酒『ってかここまできたらお前も被害者みたいなもんやで？

　結局お前もあの女に誑かされとるだけやねんって。

　アイツは誰にでもえぇ顔して、

　男やったらなんぼでも抱かれそうな顔と身体してんのに

　無駄に身持ち堅いとか絶対キャラ設定ミスってるやん(笑)

　あんな女が脚本なんか書くんが

　そもそもおこがましいねん。

　自分の世界を表現したいとか、えらっそーに語りよって』

……どうして、そんな酷いこと言えるの？

この人は結城先輩の何を知っててそんなことが言えるんだろう。

私の知ってる結城先輩は優しすぎるくらい優しくて、

守ってあげなきゃって思っちゃうくらい繊細で、

でも、そんな先輩が描く脚本(ものがたり)だから

誰の心の中にもある感情に訴えかけてくるような素敵な脚本になるのに。

どうしてそれが分からないんだろう？

演劇部だったんでしょ？

仲間、だったんでしょ……？

初めて感じる類の怒りが、胸の中をジクジクさせる。

どうしよう。

今、すごく悔しい。

酒『あんなん黙って股開いて俺の言うこと聞いてたらよかったのに、

　あの女が全部悪、』

良『もう黙れ、酒寄』

今まで、一度も聞いたことない低い声だった。

ビリッ、と舞台中が震えて

一瞬で空気が緊張する。

それはまるで、『欲動』のスポットライトを浴びた時みたいで、

だけど、今の正門先輩は

その時よりももっと、

ずっと、怖くて。

良『お前のあっさい物差しで、

　俺のことなんて言おうが別にどうでもえぇけどな。

　その物差しの使い方すら知らんド阿呆に

　蹂躙された結城の気持ちがお前には分からへんのやろうな。

　いや、もういっそ分かってほしくないわ。

　お前なんかに、あの子の見てる世界を一個も共感されたない』

『……ッ、』

あぁ、まただ。

ぐるぐる渦を巻く水の中に、一滴の藍が混じるような。

色んな感情がごちゃまぜになって、溺れてしまいそう。