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振り返ってみたら
正門先輩、少し、怒ってる？
「ど、どうかしましたか……？」
良「いや、何普通に帰ろうとしてんねやろうと思って」
「え、で、でももう解散って、」
良「こんな真夜中に、
女の子1人で帰るつもりなん？」
「え、いやでも、いつも通ってる道、」
良「あかん。
ほら、行くで」
「え、ちょっと、正門先輩！」
腕を引っ張る正門先輩に連れて行かれて、カラオケがどんどん離れてく。
後ろから困り果てたこじけんくんの
助けを求める声が聞こえたような気がしたけど
それどころではないみたい。
しばらく大人しく引っ張られてたら
急に腕を離されて、勢いで軽く正門先輩にぶつかった。
「きゃっ……。正門先輩？」
見あげてみても、暗い中だと先輩の顔はよく見えなくて。
良「……なんか懐かしいなぁ。
エリーちゃん憶えてる？
俺ら、初めて会うた時もこんなんやったん」
「……はい。
そう言えば、そうですね」
怪しいサークルの勧誘に捕まってた時に
正門先輩が助けてくれて。
そのまま演劇部のブースまで連れていかれて。
その時もこうやって、引っ張ってくれてた。
本当は、あの時は腕じゃなくて、
良「あ、そう言えば腕ちゃうな。
確か、こうやろ？」
離した手が、今度は優しく手を取った。
お酒のせいか熱い手に緩く握られて、
身体中の細胞が手に集中したみたいにぴくぴくする。
良「……もう半年やねんなぁ」
感慨深そうにそう呟いて
なんてことないみたい歩き出す正門先輩に手を引かれて、
ドキドキしながら少し後ろを歩く。
酔っぱらってるだけ？
だとしたら、こんなのズルいよ。
もっと、好きになっちゃう。
「……っ、」
せめて、手のひらから
ドキドキしてることが伝わらないように
きゅって力を入れる。
良「今日の最後の挨拶の時、エリーちゃん泣いてたやろ」
前を歩く正門先輩の声が、いつもよりもっと柔らかく聞こえる。
「……はい、」
良「ほんまはな、ずっと心配してたんよ」
「え、」
良「前に、辞めようか悩んでるって話したやろ？
あの時からどんどん芝居もうまなっていって、嬉しかったけど、
でも、どっかでまだ悩んでるちゃうんかなって」
「……、」
あぁ、やっぱり先輩には全部お見通しだったんだ。
良「それやけど、今日の挨拶の時、
泣いてたのを自分で拭いて笑ったから。
もう大丈夫なんやろうなって、安心した」
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作者名：マリア | 作成日時：2023年10月22日 2時
