企画【設定集-2】

├半生6 ページ44

俺が話しかけたのに、フィーナはぼんやりとしていて、視線はキャンバスの向こう側にあった。ガラス瓶とかりんごとか……多分、複数のものでモチーフを組んで、デッサンしていたんだろう。片手間にニードルを取り出す意味がわからないけど。



「女の子なら、身体も肌も大切にしなきゃだろ。俺はともかくさ、お前は傷なんて作る必要無いんだから」

『まあ俺は今朝もひっ叩かれたんだけど』なんて余計なことを付け足しそうになって、やめた。こんな状態の妹に八つ当たりしたってどうにもならない。

いつもへらへら笑うか半ベソかいてるフィーナは、明らかに様子がおかしかった。少し疲れた顔をしてるのは、俺の代わりにいろんな人の応対をしてくれてるからだろう。
こんな説教みたいな言葉より、ありがとうの一つでも言えた方がずっといいはずだ。




そう思ってたのに。
イーゼルに立てかけられた妹の絵を見たとき、俺はどうしても口を出さずにはいられなかった。


「フィーナ、これパース歪んでる」




◆


「一旦椅子引いて絵見てみな。お前は一部ってか細かいとこばっかに囚われすぎ、全体のバランスもちゃんと見とかないとおかしくなるぞ」


「立ち上がって数歩引くことをめんどくさがったら、ずっと歪みに気がつかないんだから」……俺がそう付け足しても、アイツは何も言わずに席を立ってモチーフを片付け始めた。その後ろ姿が「話しかけるな」と言っているように見えて、俺は少しだけ腹が立った。


……なんだよ。こっちだって朝から軟禁状態で疲れきった中、わざわざ心配してやったのに。


そもそもフィーナばっかりが甘やかされて、自由でいられて、いつも我慢するのは俺の方で＿＿そう考えれば考えるほど腹の底が煮えるみたいだった。

黒い気持ちが渦巻くのと同時に、こういう時ぐらい心配してやれよ、と主張する理性の声は、どんどんかき消されていった。


いっぺん泣かせてやる。らしくなくボーッとした面を、小さい頃に引っ張り回した時みたいに歪ませてやる。
……そうだ。魔法を使って目の前のデッサンの中にでも閉じ込めてやろうか。絵の中に入れば、修正点もありありと見えるだろ？あはは、俺ってばいっつも親切。バカを見るくらいにな。

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