企画【設定集-2】

├半生3 ページ30

……いや、彼が周囲から称賛を得ていたということは、彼女にとってはさほど大きな問題ではなかったかもしれない。


ただ、褒められてもなお謙虚に、だが純粋に、何より楽しそうに彼だけの世界を悠々と表現する片割れの姿に、気がつけば彼女は確かに嫉妬し始めていた。



◆



注目されるようになってからも、兄の態度は変わらなかった。「差は歴然、もう競る必要もないだろう」……という言い分を建前に、フィーナが兄を避け始めても尚、だ。

変わったことといえば、何故か前よりもしつこくなったこと。


「一緒に勉強しよう」「一緒に遊ぼう」「一緒に絵を描こう」「いじわるばっかりでごめんな。ずっとお前が羨ましかったんだ」「父様は"自分を超える"芸術家に育てあげるのに躍起になってる。上流貴族に仕えさせれば家の繁栄にもつながるし、この国に芸術の重要性を示すっていう、父様がずっと追いかけてきた夢をおれに託すからって」「大人達は何も知らないくせに神童だとか才能だとか、おべっかばかり、兄様達はどうしてお前ばかり贔屓されるんだと言ってくる。息苦しくて仕方ない」「期待する奴の目も、粗探しをする奴の目も無い、お前と描くときの絵が一番おれらしい。お前といる時が一番おれでいられるんだ、だから一緒に＿＿」


＿＿＿『一緒に何かをする』度に突き付けられる才能の差に、憤りとやるせなさと、"置いていかれる"という焦りを感じるしかない自分。


そしてただひたすらに募るのは、劣等感を無神経にも刺激してくる片割れへの苛立ちだった。せめて兄ともうあと何歳差かあれば、まだ割り切れたのかもしれない＿＿＿だけどよりによってその兄というのが、生まれる前から同じ場所にいて、生まれた後も暇さえあれば一緒にいた、双子の片割れ。



表現者として一番辛いのは、自分の表現に見向きすらされないこと。注目されないこと。……兄と自分との間に大きな差が生まれていたということは、周囲の反応の差によく現れていた。兄とはたった1歳も違わないのに、かつては同じ立場だったのに、大衆の目を奪うのはいつもクライヴの方。自分が憧れた父親の関心を奪うのは、いつもクライヴの方。
フィーナの方には相変わらず、見向きもされない。



……自分だって、父に憧れ、兄姉に憧れ、いち表現者として自分だけの表現を追及したいという一心で努力をしてきたのに。

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