【gnsn】機械音に口づけを【短編集】 (ページ3)

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He side

波の音が絶えず響いている。砂浜に打ち寄せては戻りを繰り返すその音は案外リズミカルで聞いていてとても楽しい。今度の新曲で、ライアー(フリューリング)の音色で再現してみるのもいいかもしれないね。

モンドの夏は案外涼しい。いや、正確には涼しいというよりも暖かいと言うべきかな。
モンドの気候や、独特な風の巡りの影響などによって一年中春のようにほんのりとした気温が続いているのだ。四季はあるけれど、その全てがどことなく春を感じさせる。

要するに、夏といっても少し気温が上がるだけのこと。風が絶え間なく吹くから、スメールみたいに頭がぐらぐらするほどの暑さはない。

……まぁ何が言いたいかっていうと、暑くもない日に海に来るのはそんなに意味はないってことで。

ボクが眠りについていた幾百年の間に、あの子はぐるりと輪廻を巡ってしまった。もしあの子が今の僕を見たら、きっと「変わっちゃったね」なんて言って笑い飛ばすだろう。

あの子はきっと覚えていないし、思い出しもしないんだろうね、でもそれでいい。過去の記憶に縛られる必要なんてどこにもないんだ。

遠い過去の記憶に縛られるのはボク一人でいい。

……折角だから曲にしよう。

綺麗な花を氷に閉じ込めて、永遠にその姿を保つように。今はもう遠い、遠い記憶を失わないように。
日々を消化するだけの日々が続いても、それでもどうやったって音は美しい。映る景色には花が咲いて、泣いたことも笑ったことも正しいと思えた……そんな子供みたいだった頃の曲を作ろうか。あの子が何回輪廻を巡っても、この曲を聴いたときに、いい曲だなって思ってもらえるように。

大丈夫、ボクはモンド一……いや、テイワット一愛されてる吟遊詩人なんだから！
きっとこの曲も、ボクじゃない誰かの手によって歌い継がれていく。そうしたらあの子がどこにいても、誰になっても必ず耳に届くだろうから。

あわよくば、どうかモンドを吹き抜ける風がボクの歌を君に届けてくれますように……なんて。