優しく冷たい ページ7
たろにぃが捕まえたタクシーに乗って,後部座席の窓から流れる深夜の街を眺める。
助手席に座った江口さんとおしゃべりしながらも,たろにぃは降りる時までずっと私に何か言いたげな様子で。
「パイセン,今日はありがとうございました〜。楽しかったです」
「ん,おやすみ宏太朗」
「ばいばいたろにぃ」
「おやすみなさい。……A?後で連絡するから」
「……おやすみたろにぃ」
にっこりといっそ怖いくらいの笑みを浮かべる兄に,背中を冷や汗が伝う。
ああ,これは近々たろにぃの追撃を覚悟しないとな。
妙に人間観察に長けている兄に,心の中でため息をつく。
「Aはもう2,3駅離れたとこだよね?」
「あ,そうです。……すみません,わざわざ」
「いや,どうせ俺んちもそっち方面だし」
深夜1時過ぎ,2人きりの車内(いや,運転手さんもいるけど)は妙に静かで,その沈黙が妙に気恥しくさせる。……絶対江口さんはなんとも思ってないんだろうけど。
落ち着かない心を誤魔化すように,私は必死に「後輩モード」でたわいもない話を続けた。
**********
「あ,この辺で大丈夫です。降ります」
「はいよ。すみません,止めてください」
「わかりました」
財布を取り出してもさっきと同じ流れになることは目に見えていたので,タクシー代は甘えることにして後部座席から降りる。
と。
「あ,いくらですか?」
「え?」
料金を支払い,私に続いて江口パイセンもタクシーの助手席から降りてきた。何故。
私が戸惑っている間にタクシーはあっという間に再発車し,江口さんと今度こそ2人きりになる。
「え,え,何でパイセンも降りてるんですか」
「え?だってA送らないとだし」
「すぐそこなんで大丈夫ですよ」
「馬鹿。もう時間も時間だし,なんかあったら困るでしょ。Aも一応女の子だし?」
「……っ,一応って何ですか……」
再び不意打ちを食らって,どうにかか細い突っ込みを返す。
送ったらまたタクシー拾うからいいのー,と続け,江口さんは私の3歩先を歩く。
「Aは事務所のだーいじな後輩なんだから」
「――あ,りがとうございます……」
大事な,事務所の,後輩。
分かってる。
江口パイセンは誰にでも優しくて,後輩皆に好かれるような存在だから。
こんな風に優しくしてくれるのも,私が特別だからなんかじゃない。
送ってくれて嬉しかったのに,その一言が刺さって,
私は江口さんと別れるまで,顔に薄っぺらい笑顔を張り付ける羽目になった。
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皐月(プロフ) - Aさん» ありがとうございます^^元々,恋人関係のあまあま江口さんのお話を書きたくて執筆を始めた作品なので,更にのんびりペースですがお付き合い編も少しずつ書き進めていきますので,よろしければご覧ください(^^)/ (2020年11月15日 18時) (レス) id: d2e19bebfe (このIDを非表示/違反報告)
サチ - 更新お疲れ様です!気になる展開です。続き楽しみにしています!頑張って下さいね。 (2020年10月25日 22時) (レス) id: 379e7fdd5e (このIDを非表示/違反報告)
皐月(プロフ) - Aさん» お返事遅くなりました。ありがとうございます^^のんびり更新となりますがお楽しみいただけたら幸いです! (2020年10月22日 19時) (レス) id: d2e19bebfe (このIDを非表示/違反報告)
A(プロフ) - 最近読み始めたんですが素敵すぎて一気に読んじゃいました!これからも更新楽しみにしてます!! (2020年10月16日 1時) (レス) id: a957c976a9 (このIDを非表示/違反報告)
皐月(プロフ) - お久しぶりの投稿となってしまいました。2週間ほど私生活がばたついておりましたが少し落ち着きましたので,また少しずつですが更新していきたいと思います。のんびりとお楽しみいただけたら幸いです(^^) (2020年10月16日 0時) (レス) id: d2e19bebfe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:皐月 | 作成日時:2020年9月8日 21時