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好き ページ50

涙が一粒,頬を伝った。
一度決壊した涙腺はもう緩み切って,ぽろぽろと溢れて止まらない。

「何で泣くの」
「っ,だって……江口さ,好きな人……いるって,」
「いるよ。今,俺の目の前に」
「ごめんとか,言うから,っ,……拒否されたかと思った……」
「A,好きな人いるって言ってたから」

言いたいことが溢れて纏まらない。
傍から見ると,なんて馬鹿らしいすれ違いをしていたんだろうか。

「江口さんの馬鹿ぁ……」
「なんでよ」

いひ,と目を細め,口元が柔らかく弧を描く。

「……でも,そうね。俺がヘタレだった。ごめんな」

どちらかがもっと早くに素直になっていれば,こんなにシンプルな話はなかったのに。
それでも,今こうして,江口さんが私のことを好きだと,伝えてくれている。
それだけで,もう充分だった。

ふるふると首を振り,絡めた指をゆっくり解く。
私より何回りも大きな手のひらを,そっと頬に摺り寄せる。
その指が私の涙を拭うように、優しく目の縁をなぞった。

「……私の好きな人は,江口さんです」

息を呑む音が聞こえる。

「江口さんしか,好きじゃないです……っ」
「……っ」

江口さんは空いている方の手で口元を抑えると,ふいと目線を逸らした。

「……やっば,」
「なんでそっち向くんですか」
「見てらんない,可愛すぎて」

よく見ると,口元を隠した手から除く頬や耳が,真っ赤に染まっている。

「あー……かっこ悪,俺」

こんな彼は初めて見る。これから先も,今まで知らなかった彼をたくさん見ることになるのだろう。

「江口さんは格好いいですよ。ハゲても」
「ねーえ、なんでハゲたらとか言うの」
「よく言ってるじゃないですか,ハゲでも愛せって」
「……愛してくれるんだ?」

頬を撫でていた手が、するりと(おとがい)に移る。江口さんがもう片方の手をソファにつくと,ぎしり,と軋む音が聞こえた。

「……まあ,追い追い?」
「素直じゃなーい」
「今更でしょう」

段々と江口さんの顔が近付く。
目を閉じると,唇に吐息を感じてーー

「はいカットぉ」

……え。

「お邪魔しまーす」
「ダメだよ公共の場でちゅーは」
「えぐ,よかったなあ」
「う、梅ちゃん……花ちゃんに壮馬くん,良平さんまで?!」
「どこから見てたお前ら!」
「Aが休憩室入るとこから?」
「最初からじゃねえか!」

言い争う皆に,思わず笑ってしまう。
ああ,……大好きだなあ,皆。


とりあえず,ーーたろにぃになんて報告しようか。

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設定タグ:男性声優 , 声優 , 江口拓也   
作品ジャンル:恋愛
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皐月(プロフ) - Aさん» ありがとうございます^^元々,恋人関係のあまあま江口さんのお話を書きたくて執筆を始めた作品なので,更にのんびりペースですがお付き合い編も少しずつ書き進めていきますので,よろしければご覧ください(^^)/ (2020年11月15日 18時) (レス) id: d2e19bebfe (このIDを非表示/違反報告)
サチ - 更新お疲れ様です!気になる展開です。続き楽しみにしています!頑張って下さいね。 (2020年10月25日 22時) (レス) id: 379e7fdd5e (このIDを非表示/違反報告)
皐月(プロフ) - Aさん» お返事遅くなりました。ありがとうございます^^のんびり更新となりますがお楽しみいただけたら幸いです! (2020年10月22日 19時) (レス) id: d2e19bebfe (このIDを非表示/違反報告)
A(プロフ) - 最近読み始めたんですが素敵すぎて一気に読んじゃいました!これからも更新楽しみにしてます!! (2020年10月16日 1時) (レス) id: a957c976a9 (このIDを非表示/違反報告)
皐月(プロフ) - お久しぶりの投稿となってしまいました。2週間ほど私生活がばたついておりましたが少し落ち着きましたので,また少しずつですが更新していきたいと思います。のんびりとお楽しみいただけたら幸いです(^^) (2020年10月16日 0時) (レス) id: d2e19bebfe (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:皐月 | 作成日時:2020年9月8日 21時

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