特別 ページ49
全部全部,江口さんが悪いのだ。
あそこまで拒否されたのなら仕方がない,いい加減忘れよう,何なら江口さんの恋を応援しようとこの2週間で決意を固めたのに。
偶然出会った江口さんはやっぱり格好良くて,そのくせ相変わらず優しくて,消そう消そうと心の奥にしまい込んでいた気持ちをいとも簡単に蘇らせてしまう。
好きな飲み物なんて,大昔にぽろっと言ったきりなのに。
こんなつもりじゃなかったのに,勢いでとんでもない暴露をしてしまった。
掴まれた手首を咄嗟に振り払うと,案外あっさりと解放されたので,これ幸いと両手で顔を隠す。
頭の上で,くすりと江口さんが微笑む声が聞こえた。
「顔,見せて」
「やです」
「俺が見たいの」
「――っ,え,ぐちさ」
顔を覆っていた手を,両手でぐいと掴まれて下ろされる。今度は解こうとしてもぴくりとも動かなくて,もう反抗する
どうにか涙で濡れる目だけでも見えないようにできないかと視線を地面の方に彷徨わせるも,江口さんは座る私の足元に跪くような体勢になって下から目を合わせてきた。
「……見ないでください」
「なんで」
「今絶対変な顔してるから」
泣き顔なんてそうそう人に見せるものでもない。
自分でまじまじとチェックしたことがあるわけではないが,きっと目元の化粧は取れかかってるし,そもそも最近あまりよく眠れていないこともあって,むくみも相当のものだろう。
江口さんは手首を掴んでいた手を持ち替えて,私の手のひらに自分の手のひらを重ね,――そのままするりと指を絡めた。
所謂,両手で恋人繋ぎをしているわけで。
「……可愛いよ」
「え,」
目を合わせて,普段よりいくらか低い音でそう言った後,すり,と指と指を優しく擦られてしまえば,もう何も言えなくなってしまう。
なんで,どうして。
江口さん,好きな人がいるんでしょう?
私のこと,ただの後輩としか思ってないんでしょう?
「俺さ。別に,誰にでも優しいわけじゃないよ」
疑問符で一杯の頭の中を見透かすように,江口さんは言葉を紡ぐ。
「特別だから――Aだから,優しくしてる」
「……っ」
「意味,わかる?」
意味を察せないほど子供じゃない。
でも,どうしても,どうしても信じられなくて。
ちゃんと言葉を聞くまでは,確信するのが怖い。
恐る恐る,江口さんの顔を正面から見据える。
「……やっと,ちゃんとこっち見た」
彼もまた,真っ直ぐ私を見つめた。
「――Aのことが,好きです」
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皐月(プロフ) - Aさん» ありがとうございます^^元々,恋人関係のあまあま江口さんのお話を書きたくて執筆を始めた作品なので,更にのんびりペースですがお付き合い編も少しずつ書き進めていきますので,よろしければご覧ください(^^)/ (2020年11月15日 18時) (レス) id: d2e19bebfe (このIDを非表示/違反報告)
サチ - 更新お疲れ様です!気になる展開です。続き楽しみにしています!頑張って下さいね。 (2020年10月25日 22時) (レス) id: 379e7fdd5e (このIDを非表示/違反報告)
皐月(プロフ) - Aさん» お返事遅くなりました。ありがとうございます^^のんびり更新となりますがお楽しみいただけたら幸いです! (2020年10月22日 19時) (レス) id: d2e19bebfe (このIDを非表示/違反報告)
A(プロフ) - 最近読み始めたんですが素敵すぎて一気に読んじゃいました!これからも更新楽しみにしてます!! (2020年10月16日 1時) (レス) id: a957c976a9 (このIDを非表示/違反報告)
皐月(プロフ) - お久しぶりの投稿となってしまいました。2週間ほど私生活がばたついておりましたが少し落ち着きましたので,また少しずつですが更新していきたいと思います。のんびりとお楽しみいただけたら幸いです(^^) (2020年10月16日 0時) (レス) id: d2e19bebfe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:皐月 | 作成日時:2020年9月8日 21時