ハゲでも愛すよ江口パイセン！【完】

優しくしないで ページ48

予想とは離れた反応に，思わずどきりとする。
良かれと思ってしたことだったが，何かまずかったのだろうか。

「……A？」
「――めて」
「え？」
「やめてください，そういうの……」

ぐさりとAの言葉が刺さる。
その言葉が指すものは，きっと飲み物のことだけではない。

――やっぱり，俺の気持ちは迷惑でしかなかったのだろうか。
伝えたら，もう，何もかも終わってしまうのだろうか。
思わず思考が揺らぐ。

ふと気付くと，Aは歪んだ表情のまま，目の縁に涙を溜めていた。
本人も意図していないらしく，今にも零れそうな涙を必死に堪えているように見える。

「……っ」

けれど，あの夜，腹を括ったのだ。
宏太朗だけじゃない，俺の気持ちを知って，背中を押してくれた人達の顔を思い出す。
傷付きたくなくても，Aとの関係が崩れるかもしれなくても，ここで引くわけにはいかない。
せっかく気付けたAへの気持ちや周りの人の思いを，無駄にはしたくなかった。

きっと，ここが決着のつけ時だ。

「そういうの，……って？」

元々自分が座っていたソファに座りなおす。
正面に座るAは，何かを言い淀むように，言葉を選ぶように何度か口を開ける。
急かさないようにと，自分用に買った缶コーヒーを一口，口に含む。
いつも飲んでいるのと同じなのに，今ばかりは味がよく分からなかった。

「……嫌なんです」
「ん？」
「あんまり，優しくしないでください……」

その声は，ひどくか細くて，少し震えていて。
どうしてそんなことを言われるのか分からないけれど，偽りや誤魔化しではない本心なのだと分かった。
Aが本音を伝えてくれるなら，俺も本音をぶつける他ない。

「俺は……俺は，Aに優しくしたいよ」
「ダメなんです，それじゃ」
「どうして？」
「……っ，だって」

Aは少し俯いて，膝の上に置いた手でスカートの襞(ひだ)を握りしめる。

「私以外の皆にも，優しいから」
「――え，」
「きらいです。……期待するだけ，馬鹿みたいだから」

その言葉の意図を，Aの表情の意味を，ゆっくり飲み込む。
もし，……もし，都合良く捉えていいのなら。

「……A，それさ」

立ち上がって，Aの方へと近付く。
逃げようとしたのだろう，立ち上がろうと腰を浮かせるAの肩を軽く押して座り直らせ，更に顔を隠そうと動いた両手を自らの両手で捕まえる。

「――俺のこと，好きって言ってる？」

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