ハゲでも愛すよ江口パイセン！【完】

偶然必然 ページ47

宏太朗に喝を入れられてから数日後。
闇のゲーム収録からは2週間が経った。
その間，Aとは会っていないどころか連絡すら取っていない。
なんとかコンタクトを取らなければという思いはあるが，最近スケジュールが詰まっていたこともあってここまでずるずると来てしまった。

「……あと2時間ちょいか」

日はとうに落ちたけれど，夕飯を食べるには少し早い時間。
次の仕事の収録スタジオに到着したのはいいものの，まだ数時間余裕がある。
普段人があまりいない，廊下の奥にある共同スペースの休憩室に向かい，ソファの1つに身を沈めた。幸い，休憩室には誰もいない。時間的にも，恐らくもう人は来ないだろう。

片手にスマートフォンを持ち，Aとのトーク画面を開く。
逡巡の後，トーク画面を閉じる。また開く。
最早お決まりの流れのようにそれを繰り返し，最後に電源ボタンを押した。
暗くなった画面には自分の情けない顔が映っていて，思わず大きくため息をつく。

「……はー，」

ここまで自分はヘタレだったかな，と自己嫌悪する。
過去にも恋人と呼べる女性はいたし，告白したことがないわけでもない。
それなのにここまで二の足を踏んでしまうのは，それほどまでにAが大切で，愛しくて――ここまで構築してきたこの関係を壊したくないと願っているからなのだろうか。
それでも，もっと距離を詰めたいと願う自分がいる以上，この心地良い関係は壊さなければいけないのだ。

「どうすっかなあ……」

改めて，スマートフォンの電源をもう一度オンにした時だった。
がちゃりとドアが開いて，反射的に音のする方向へ顔を向ける。

――と，

「……あ」
「江口さん……」

驚いた表情のAがそこに立っていた。
手には何かの台本を持っていることから，Aも仕事の合間にここに立ち寄ったのだろう。

「久しぶり。……休憩しに来たの？」
「あ，えっと……少し時間が空いちゃって。台本読み込みついでに，飲み物でも買おうかなと」
「そか。あー，今，ちょっといい？」
「……？」

先程まで話したい会いたいと考えていた相手が目の前に現れてくれたというのに，しどろもどろな受け答えしかできない自分に辟易する。とりあえずと手招きして，机を挟んだ目の前のソファに座るよう促した。

ついでに手早く自動販売機へ向かい，温かい緑茶とココアのボタンを押して，Aに差し出す。

「はい。好きだよね，これ」

Aは数度大きな瞬きをして――顔をくしゃりと歪ませた。

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