ハゲでも愛すよ江口パイセン！【完】

敵わない ページ38

そう，確かあの時も，この匂いがした気がする。
仲良くなった今になって，この匂いは江口さんお気に入りの香水だと知った。
なんで，こんな大切なこと今まで思い返さなかったんだろう。
当時は江口さんとの関わりは薄かったから，あんまり話さない事務所の先輩と少しお話した――くらいの認識でいた。

結果，そのアニメ映画は大成功して，有難いことにいろんなところから声をかけていただく機会が増えた。そこから何年も経って，私のお仕事も少しずつ軌道に乗ってきて，改めて江口さんと出会って，いつの間にか仲良くなって，たろにぃと江口さんを中心としてどんどん輪が広がっていって。

……そっか，私，こんな昔から江口さんに助けられていたんだ。

そりゃあ好きにもなっちゃうよなあ，と心の中で独り言ちる。
ちらりともう一度江口さんを覗き見る。
相変わらず江口さんは真剣な表情でスクリーンを見つめていた。
こうやって見ると，悔しいくらい綺麗な顔してる。

ふと，スクリーンを真っ直ぐ見つめていた瞳が動いて，私を捉えた。
目が合った瞬間，どした？と問うように軽く首を傾げて柔らかい表情をされる。
慌てて数回首を振り，視線をスクリーンに移して映画に集中するフリをした。

……その間も，柔らかい香水の匂いが鼻腔を擽って，なんだか落ち着かない。

「(……ああ，ずるいなあ)」

こうして，ただの罰ゲームかと思われた映画鑑賞は予想外の方向に思いを馳せる結果となり。
――結局，江口さんへの気持ちを再確認して，緊張感は解けることなく終わりを告げた。


＊


「あー，面白かった」
「私はすんごく恥ずかしかったですけどね！」
「久しぶりに見たけど，やっぱいい映画だわあれ」
「私の演技以外はって言うんですよねどうせ」
「いやまあ，もちろん今よりは劣るけど。上手かったよ。いっぱい頑張ってたもんな，あの作品」
「え」
「当時，宏太朗がすんごいはしゃいでもいたんだけどさ。同時に心配してたんだよ，初めての主演だからプレッシャーも大きいし，でも身内で同業者の僕には多分そんな素振り見せないだろうしって」
「たろにぃが……」

知らなかった。
当時はただただ純粋に楽しみにして待ってくれているんだとばかり思っていたけれど，ちゃんと私のことをわかって思ってくれていたんだ。
……同業者としても，兄妹としても，やっぱりたろにぃには敵わないなあ。

「……今度マイル旅行券たくさんあげときます」
「ｗｗそうしな」

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