自覚と無自覚 ページ13
意図が掴めず,思わずぱちぱちと瞬きを繰り返す。
江口さんも江口さんでどこか驚いているような表情をしていて,数瞬,沈黙が流れる。
「……江口さん?」
「え?あ……,ごめん」
声をかけると,はっとして私の手首を離す。
え,……どうしたんだろう?
江口さんも,私の手首を掴んでいた右手を眺めて首をかしげている。
「私何かしました?」
「いや,そういうわけじゃないんだけど……んー?」
「――江口さん」
「え?」
ずっと私達の様子を観察していた梅ちゃんが口を開く。
「別に,江口さんも唐揚げが食べたいならあげますから」
「はい?」
「Aに唐揚げ取られるからって拗ねないでくださいよ。はい,これ」
……あ,なんだそういうことか。
確かに,江口さんラーメンとかカレーとか子供っぽいメニュー好きだもんな。
はい,と私達のプレートの隅に唐揚げを1個ずつ移した梅ちゃんは,これまた素早い箸さばきで私のプレートからデザートのフルーツを,江口さんのプレートからは,残り1/4程残っていたハンバーグをそのまま自分のプレートへと戻していった。
「……あ,ハンバーグやっぱうま」
「え,待って梅ちゃんデザート取らないでよ楽しみにしてたのに!!」
「俺に至っては残りのハンバーグ全部取られてるんですけど!?」
「唐揚げ1個に対する対価をいただきました」
「くっそ……――いやこの唐揚げうま」
「マジだ……梅ちゃん,サバも食べる……?」
「いらねえ」
「じゃあ私は江口さんのデザート貰いますね」
「なんでだよ!!」
そこで妙な空気はどこかへ消え去って,食事はいつも通りの空気感に戻っていった。
――江口さんとのこういう緩く絡む感じ,ちょっと久しぶりかも。
江口さんへの気持ちを自覚してからどう接しようか迷ってたけど,やっぱり暫くはただの後輩のままが楽だ。
……距離を詰める勇気がないと言えばそれだけかもしれないけれど。
*
「いやー美味しかった!ごちです江口さん!」
「ご馳走様した」
「はいよー」
「デザート美味しかったですねパイセン!!」
「俺食べてないからね!?」
「次来たときは野菜炒め定食奢ってあげますね」
「ねーーーーえ」
目の前で一見いつも通りのやり取りを繰り広げる2人を見ながら,ふむ,と独りごちる。
我ながら,人間観察には長けている方だと思うんだよな。
「江口さんは無自覚……っぽいけど,Aも様子変なんだよな……」
「ん?梅ちゃん何か言った?」
「……いや」
ま,暫く見守りますか。
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皐月(プロフ) - Aさん» ありがとうございます^^元々,恋人関係のあまあま江口さんのお話を書きたくて執筆を始めた作品なので,更にのんびりペースですがお付き合い編も少しずつ書き進めていきますので,よろしければご覧ください(^^)/ (2020年11月15日 18時) (レス) id: d2e19bebfe (このIDを非表示/違反報告)
サチ - 更新お疲れ様です!気になる展開です。続き楽しみにしています!頑張って下さいね。 (2020年10月25日 22時) (レス) id: 379e7fdd5e (このIDを非表示/違反報告)
皐月(プロフ) - Aさん» お返事遅くなりました。ありがとうございます^^のんびり更新となりますがお楽しみいただけたら幸いです! (2020年10月22日 19時) (レス) id: d2e19bebfe (このIDを非表示/違反報告)
A(プロフ) - 最近読み始めたんですが素敵すぎて一気に読んじゃいました!これからも更新楽しみにしてます!! (2020年10月16日 1時) (レス) id: a957c976a9 (このIDを非表示/違反報告)
皐月(プロフ) - お久しぶりの投稿となってしまいました。2週間ほど私生活がばたついておりましたが少し落ち着きましたので,また少しずつですが更新していきたいと思います。のんびりとお楽しみいただけたら幸いです(^^) (2020年10月16日 0時) (レス) id: d2e19bebfe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:皐月 | 作成日時:2020年9月8日 21時