たとえあなたが人でなくても 下

平安:参 ページ33

Aが蝋の火を消したら真っ暗になった


何も見えやしない
見ることが出来ない


だから言っただろう。
ただでさえ新月なのだ、光なんてものはない


暗闇であの莫迦との距離感も掴めやしない




「お前は何がしたかったんだ」

『まぁまぁ、ほら空を見てください』

「は？空だと？月がないくせにどうし……」





顔を上に向ければ数多もの星々が
夜空いっぱいに盛大にと広がっていた


そうだな、この感動をどう表せば良いのだろうか


この景色はまさに





「ｯあぁ、…これは綺麗だ」

『そうでしょう？
新月だからこそ見れる夜空があるんです』

「そうだな、星が綺麗だな」






今まで気づかなかった

暗闇でしか思えなかった


そんな夜はずっと寝ていようと決めていた

そうすれば、生きることや死ぬことへの
煩わしさ等の気持ちは消えて無くなる


それなのにお前と見る空は
こんなにも素晴らしいものなのか




「A」

『ｯ…どうしたのですか？名前など呼んで』

「お前は、私と婚約して後悔はしてないか？」

『あら、そんなことですか』







ずっと気になっていた

私とお前は望まれていない同士の結婚

それに加え短命な男に嫁いだのだ

少しくらい不満やらあるだろうに



私の左手に、彼女の右手が上に重ねられた


温かい




『私は後悔などしてませんよ。
寧ろ楽しい日々です、貴方様と結婚してから』

「そうか」





顔は見えないが穏やかだろう


声がそう言っている。聞き慣れた声





『無惨様は、どう思ってますか？』





ふっ、そんなことを聞いてどうする


聞くまでもないな





「以前よりは楽しくなったと感じている。」

『そう、ですか。』

「そうだ」

『それなら嬉しいです』





たまにはこう言う雰囲気があっても良いもんだ




重なれた左手を離して肩を引き寄せる

右手で繋がっていた手を取り暖を取った






『星が綺麗ですね』

「あぁ、とても綺麗だ」









星が綺麗ですね




意味は、あなたに憧れています


だけど彼らは知らない 知りもしない



なぜならここは平安時代


しかし確かに彼らは言っていた




あなたに憧れています(星が綺麗ですね)と

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