たとえあなたが人でなくても 下

60話 ページ11

ある夜のこと



彼の帰りを待つのを諦めた

だってあまりにも遅いのよ？

朝になれば陽の光が差し込むでしょうから
光を通さない分厚いカーテンをすべて閉じて
部屋を夜よりも暗い暗闇の世界へと変動させる



瞼を閉じれば夢の世界








何かが動く音がした

目を覚ませば暗い部屋の中で
ボロボロな姿の無惨様が横たわっている

そのことに驚くと、お腹にも衝撃が走る


ごめんなさい、吃驚(びっくり)したわね


こんなこと1度もなかった。

だからどうすればいいのか分からない

起こそうにも 起こしていいのかすら 分からない



回復が早いためか傷口は見当たらないが、
血は所々に付着している

寝起きのたどたどしい動きで
台所に向かいお湯を沸かした

手拭きを部屋から持ってきたら丁度いい時間

お湯を器の中に入れ、水と混合させて
ぬるま温度に合わせる


どこかしら辛そうな彼を見て胸が苦しくなった




一体何がありましたの…？




濡らした手拭きを絞り、
痛々しいところに当てていく



お風呂にも入ってないじゃないのよ。
砂埃も付いてるわ



顔を当てるように優しく拭いていたら目を覚ました。
朧気な表情でただただこちらを見てくる

やっと意識がはっきりしてきたのか
名前を呼んでくださったわ




『どこか痛みますか？』

「平気だ」



……とても平気には見えませんよ。

心の中で呟く


次は服の中かしらね

ベッドの脇に座り、着替えてすらいない
無惨様のベストを脱がす

一つひとつボタンを取り、ワイシャツまで
手をかけたところで鍛え上げられた胸筋が見えた

それを見てつい声が漏れる



「いつも見てただろ」

『久しぶりでしたもので…なんだか恥ずかしいです』

「初々しいな」


急にご機嫌になったので
後でご説明お願いしますねと伝えると
寝るとだけ言い残して目をつぶりになった

なんて都合のよろしい事なのかしら



『お身体は拭いてもよろしいですか』

「あぁ、すまないが頼む。だが無理はするなよ」

『はい、無惨様も』

「……善処しよう」



もう、こういう時にまでご自身よりも
私の心配をなさるものだから いつも気が気でないわ

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