魅惑的ミルフィーユ

「恋する明日」玉森side -ニイナ- ページ32

新入社員研修で隣の席になった安達を見て、きれいな子だな、と思った。

でもなんか気強そうだし、苦手なタイプかも、って思ってた。

元々人見知りなこともあって、その時あんまり会話をした記憶はなかった。

初めてちょっといいな、って思ったのは。

「なあ、宮。この電話取ってくれたメモ誰の字？めっちゃきれい」

「アダッチーじゃない？さっき置いてたよ」

字がきれいだな、って思ったのと、メモの内容がすごくまとまっててわかりやすかったこと。


企画開発部は、名前だけ聞けばかっこいいけど、新人は特にアンケートなどの情報収集やデータの分析や、ものすごく地味な仕事が多い。

「……まじだるい」

「こら、玉！そんなこと言ったらだめだよ！」

宮田に怒られる。

「だって入力してもしても終わんねー」


「安達、昨日のデータ入力どこまでできた？」

北山部長が安達に話しかけてる。

「もう終わってます。これがグラフ化したものです」

「まじ？やるじゃん。こっちも頼んでい？」

「はい」


「アダッチー昨日残業してるって思ってたら、データ入力終わらせてたんだ。すごいね」

「…俺今から本気出すから話しかけんな」

宮田が笑いを堪えながら、はーい、って返事してる。



俺と宮田と安達の3人が企画開発に配属されてしばらく経つと、宮田と安達は仲良くなった。

「アダッチー、おはよー！」

「おはよう宮田くん」

というか、宮田は誰とでも仲がいいから、安達とだけ特別仲がいいって訳ではないけど。

「…おはよ、安達」

「……おはよう」


でも俺と安達は、仲良くならなかった。全然。

宮田に向けていた笑顔は、俺を見ると一瞬でなくなってむしろ固い表情になる。

一緒に仕事してるうちに、いつも真面目にコツコツ仕事をこなして、進んで雑用も引き受ける安達を、いつの間にか目で追うようになったけど。

全然目が合うことはなかった。


俺は自分で言うのもなんだけど、ちょっと好きかもって思う子とは、だいたいうまくいった。今までは。

そういうのって、なんかわかるじゃん。

目が合ったり、恥ずかしそうにしたり、お互い意識してる、みたいな、そういうの。


でも、安達は全然俺を見なかったし、会話も自分からはしないし、笑ってもくれなかった。


元々社交的でも積極的でもない俺は。


強引に距離を縮めることもできなくて。


かと言って、すっぱり諦めることもできないままだった。

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