魅惑的ミルフィーユ

※ ページ22

そのあと、部長と一緒にフロアまで戻っていたら、なんだかやけに視線を感じる。

何だろう。


自分のデスクに戻ったら、宮田くんが早足で近づいて来た。

「アダッチーあのさ」

「あ、宮田くん。大阪出張の話聞いた？」

「うん、聞いた聞いた。明後日からだよね…ってそれはいいんだけど」

「どうかした？」

「昨日の同期会のあと、部長と抱きあってたってほんと？武田が見たって言ってたんだけど」

「…え？」

「いやほら。また武田があることないこと言ってんだったら、ちゃんと否定しとくし」

「抱き合ってたって、そ、それは誤解だけど！
つまづいて…そんな風に見えたのかもしれない…」


さっきなんだか視線を感じたのは、そういうことだったのかもしれない。


どうしよう、違うのに。


きっと部長にも迷惑をかけてしまっている。


それに。

宮田くんが聞いたってことは。

玉森くんも聞いてそう思っているのかも。


別にただ見ているだけなんだったら、どう思われてもいいはずなのに。


動揺してる自分が、いる。



午後の仕事をなんとか終えて、帰る前に人が少なくなったのを見計らって、部長のデスクに近づく。


「部長、申し訳ありません！」

「ん？何？」

「昨日つまづいて支えてもらってたところ、見られてしまっていたみたいで」

部長の資料をめくっていた手が止まる。


「…そーか」

「もし何か誤解されていたら、私のせいです」

「別に何もやましいことしてねーんだから。
言いたい奴には言わせとけ」

「でも」

「誤解されたくない奴いんの？」


玉森くんの顔が浮かぶ。


「……はい」

「そっか。それは自分でなんとかするしかねーな」

「はい」


もう一度、申し訳ありませんでした、ってお辞儀をして部長のデスクから離れようとしたら。


「安達」

部長に呼び止められた。


「そのままのお前がいいって言ってくれる奴が、絶対いるから」


部長の言葉は、いつも、すとん、と私の中に落ちてくる。


「部長」

「何だよ」

「部長もまわりのことばっかり考えてないで。
たまには自分のこと一番に考えてくださいね」

部長が、ふはって笑う。

「言うじゃん」






二日後の出張の日の朝。


宮田くんと東京駅から一緒に行こうって待ち合わせをしていた。

のに。


「……おはよ」



そこに現れたのは。



なぜか、玉森くんだった。

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