君のその手に ーspinoff ー 桐谷麗華の恋。【完結】

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振り返って私を見た宏光の冷たい視線に怯んでる場合じゃなかった。



人目を避けたくて宏光の手を取ってそのまま非常口の階段へのドアを開ける。







「こんな所に二人でいたら怪しまれますよ？」



「宏光⋯怒ってる。」



「怒ってなんかねーよ」







怒ってる。宏光が。
ようやく二人きりなのにものすごく遠い。



自分は相沢さんといちゃいちゃしてるのに
怒ってるってどういう事？



旅行中ずっと遠かった宏光の腕を取ればその体温だけで愛しさが溢れそうになる。






「離して。」



初めての宏光からの拒絶に不安になったけど、違う。




拗ねてるんだ。
この旅行に小沢が来た事を。



私が見限られたと思ったけど、よく見ると面白くなさそうにそっぽ向いててなんだか可愛く見えてきた。





「ね、機嫌直してよ？」





優しく言ってみるけどまだまだ彼の心を溶かせそうにない。



このまま、相沢さんの所、行っちゃう･･･？






「⋯旦那に優しくしてもらえばいいじゃん。」




･･･普段そんな事絶対言わないのに。



拗ねてるんじゃないの？
ほんとにそう、思ってるって事？




「⋯宏光だって相沢さんと仲良くしてるじゃない。⋯付き合う事にしたの？」




声が震えてないか心配になる。
そうだよ、と言われて私は冷静に宏光を手放せるのか。




「⋯オレが相沢と一緒にいるの、やだった？」





怒った顔のまんまの宏光の目に食い入るように見つめられる。





「嫌だったよ」
素直にそうさらけ出した瞬間、唇を塞がれて貪るように舌を絡められた。








・・・・良かった、まだ、大丈夫、







心底ほっとした。
同時に宏光の唇が気持ちよくてどうにかなりそうだ。



ここがどこかなんてすっかり頭から抜け落ちて
キスに夢中になってしまう。




気が付くと体勢は逆転して
ひんやりとした壁に押し付けられていた。






「はぁー、止めらんない。」



宏光の色を持った表情と掠れた声にゾクリとした。



早く、キスしたい、



もう一度、とせがむように宏光の首に腕を回した時
視界の向こう側に誰かいるのに気が付いた。





「っ！宏光っ、」




焦って宏光の肩を叩く。






「きた⋯やま⋯？」





よりによって伊藤さんに見られるとは。




お互いどうしたらいいのか、どんな顔したらいいのかわからずしばらく沈黙が流れる。




恥ずかしくて消えてしまいたくて




その場から逃げるように立ち去るしかなかった。

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