帰ってきた「君のその手に」【完結】

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「あいつら、こんなとこで･･･、」




崎本部長の声が遠くに聞こえる。



宏光は私達に気付く様子もなく、ただ、桐谷部長と何か話しながら微笑み合ってて･･･、



あぁ、宏光、桐谷部長の事、すごく好きだったんだよね。
桐谷部長を見る目が、いまだに憧れの人を見るかのような、恋してる目に見えて、嫉妬心が湧いてくる。







・・・私、そんな目で見られた事、ない。



ぎゅっと手を握って、これ以上見たくなくて思わず下を向いてしまう。





「･･･伊藤？声かけよ？大丈夫だって。」




そう言って背中を押されたけど
声かけて、こんな私の嫉妬に満ちた可愛くない顔を二人に見せたくなくて。



なにより、宏光、今、私の事なんて忘れてるよね？





二人から遠ざかるように崎本部長の手を振り切って走った。



伊藤っ、て声が聞こえたけど構わず走る。



だって、だって、いい感じなんだもん、二人。
邪魔なのは私じゃないの？



それに･･･ほんとに何も無いって言い切れるのかな？
偶然会ったの？
それとも、約束してたの？



どっちにしても再会して宏光の気持ちが戻ってしまった可能性だってあるしっ。





はぁはぁと息を切らしてもう走れないって立ち止まる。






「どんだけ速いんだよっ、」




同じく息を切らした崎本部長に肩を掴まれた。



追い掛けてきてくれたんだ。
申し訳ないな、巻き添えにしてしまった。
そう思って息を整えて崎本部長に謝ろうとした時だった。








・・・・・っ？







途端、手が震えだして指先が冷たくなるのがわかる。
それと同時に心臓がバカみたいにドキドキと音を立てて
息を吸いたいのにまったく呼吸が出来ない。




苦しくて苦しくて、



どこを頼っていいのか分からず胸の辺りの服をぎゅっと握りしめた瞬間、体がよろけて崎本部長に倒れ込んだ。




「･･･伊藤っ？」




肩を掴まれて顔を覗き込まれるけど
息が出来ないんだから声を出す事も出来ない。




・・・私っ、死ぬのかな、




死ぬ程苦しい、とはこの事だ。
まるで深い海の中に無理やり沈みこまされたような状況で
立っていられなくてそのまま地面に手をついた。

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