帰ってきた「君のその手に」【完結】

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確かに、この異動の件ではかなり動揺もしたし緊張もした。



崎本部長の下って事。
初日にA支社での頑張りを期待してるって言われた事ももしかしたらプレッシャーになってたのかもしれない。



それに加えて宏光の後釜っていうのも
自分なりに宏光と同じ成果を上げなきゃって目標を掲げちゃったりして。




「ちょっと、だいぶ意気込んでたのかもしれないです･･･。」




崎本部長に言われて、素直に自分を顧みる事が出来た。





そしたらふっと笑った崎本部長は




「息抜きする事から考えなきゃだよ、伊藤は。」


「そう、ですね。よく言われます。北山にも。」


「おまえら似た者夫婦だよ。北山にもそのまんま言ってやれ。」


「ひろ、･･･北山は、器用だから心配ないですよ。」







ま、そうだな。
そう言って笑った後に、真面目な顔になった崎本部長に



「発作来るとやばいから。もし苦しいって時が来たらとりあえずなんでもいいから袋を口に当てるんだ。」


「袋？」


「酸素吸いすぎて苦しくなるから自分の吐く二酸化炭素を吸う事で楽になんだよ。覚えとけ？」



で、紙袋でも持ち歩いとけ。･･･って。



「詳しいんですね。」



目を丸くして言うと崎本部長は静かに目を伏せた。



「あれだ、その、嫁がな。ちょっと、そういう時あったから。」








・・・それって、私と、会ってた、時？




崎本部長の表情から
直感的にそう気付いたけどそれは言えなかった。



やっぱり奥さん、気付いてたんだ。



私は本当に罪深い事をした。



勝手に自分だけが苦しいんだと被害者ぶってた時もあったけど、そんなにも奥さんを苦しめてたんだ･･･。



二人の間に重苦しい空気が流れて
それを払拭するように崎本部長は行くか。と明るく立ち上がる。




「心配すんな。今は嫁はピンピンして元気だし。子供が手がかかるからそんなグチグチ言ってる暇ないんだから。」


「崎本部長、奥さんと仲良くされてますか？」


「･･･あぁ。それなりにな。」





不思議。
こんな話が出来る日が来るなんて。




そんな話しを聞いても、なんの嫌悪も抱かない自分に清々しいくらいだった。




二人で駅までの道を歩く。




「あれ･･･？」



小さく呟く崎本部長の声の方に目をやると
数メートル先、宏光と、




桐谷部長が向き合って話してるのが見えて
瞬間、心臓がドクン、と音を立てた。








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