帰ってきた「君のその手に」【完結】

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宏光の顔がどんどん不機嫌になってきたから焦ってきた。




「そろそろ帰るよ、ね、宏光帰ろう？」




宏光の腕を取ると、しゃーねーな、って言いながらも少し優しくなった表情。



せっかく集まってるのに皆宏光に厳しいんだから。



旧姓のまま仕事をしてる事、宏光は良く思ってないんだろうなっていうのはなんとなくわかってる。



でも、そこは譲れなかったっていうか。
名前を変えないのは
ずっと”伊藤”で仕事してきた私の居場所、みたいなもので
そこだけは変えたくなかった。



うちの会社は社内結婚しても女性側は旧姓を通す事も多かったから私も当然のようにその選択をしたけど･･･



社内じゃない所で呼ばれてるのが、気に入らないのかな？
でも皆会社の人だし。仕方ないよね。



ぞろぞろと店を後にして歩き出す。



藤ヶ谷が私に話しかけてきたのと同時に
相沢さんが宏光に話しかけてる。



･･･そっか。
これからは宏光は相沢さんの課に行く事になるんだもんね。



・・・・なんか複雑。





「聞いてる？A、」



宏光と相沢さんが顔を寄せて話してるのを見てたら藤ヶ谷の声が聞こえてなかったみたい。




「あぁ、ごめん、なんだっけ？」


「だから、崎本部長の下で平気かって聞いてんだろ？」



ほんと、気抜けるわって深くため息をつかれた。



「そう、なんだよ。平気か平気じゃないかと聞かれれば、」


「･･･だよな。いったいどんな人事だよって思うよ。」


「それだけもうあの頃の騒ぎは風化したってことはいい事だよね。」


「前向き発言だな。」




いや、別に前向きなわけでは、ない。




「ほんとはめちゃくちゃ参ってんじゃない？」




･･･やっぱり藤ヶ谷だ。
A支社へ行く私の心境を心配してくれてる。



やっぱり複雑な想いを抱えての異動は気が重いから。




「そうなの。どうしていいかわからない。」


「北山には？言った？」


「言えない。平気なフリしないと心配かけちゃうもん。」




まあな、とまたため息を付きながら相沢さんとキャッキャ言ってる北山の方を見つめてる藤ヶ谷。





「なんかあったら話くらい聞くから。」


「･･･でもっ、」


「遠慮なんかすんな。頼もしい俺の彼女も連れてくし。」





相沢さん込みで相談に乗るって言ってくれてる藤ヶ谷に気持ちが軽くなって




「また話、聞いてね。」



ペコリと頭を下げた。
あぁ、このまま藤ヶ谷には頭上げらんない。





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