君のその手に ３

１０５ 北山side ページ10

結局今日は麗華さんと一度も目が合わなかった。



いつもと変わらず振舞ってるように見えるけど
オレにはわかるよ。



麗華さんだって
オレを失う事がまだ受け止められなくて、戸惑ってる事。



昨日きっと沢山泣いたんだろうなって事。






・・・それまではキビキビと内田部長と話し合ってた麗華さんが、朝礼が始まるとともに表情が固くなって泣きそうになってた事も。



たかが、信頼してた部下一人、この課からいなくなるだけじゃん。そんな顔してたら普通の関係じゃないってバレるだろ？なんて思うけど⋯



それでもやっぱり笑顔で見送られるよりは
オレの心も救われた。









オレ達、また笑えるかな？




麗華さんだってオレの事、本気で好きだって言ってくれたじゃん？


でも旦那といたらそんな事すぐ忘れちゃう？






・・・オレは麗華さんと離れたら
麗華さんの事想い出に出来る？





わかんね。全然。
想像も付かない。
麗華さんがいない世界なんて。






最後に短く挨拶をして
最後の最後までオレを見てくれなかった麗華さんを横目に荷物を抱えてフロアを出る。




本社から出てく寂しさは不思議な事に一つも無かった。



仕事なんて場所が変わったってやる事は同じだ。



ただ、今後したい仕事が限られてくるんだろな、とは思ったけど今はそんな事どうだって良かった。




エレベーターに向かってると後ろからイトが切羽詰まった様子で追い掛けてくる。




⋯今はイトと話したくない。
やっぱりイトにはオレの今の気持ち、なんにも言わなくても全て見透かされる気がして。




今は誰にも心の中に入り込まれたくない。




やっぱり確信を付いてくるイトの問い掛けに
うるせーよ、って思いながらエレベーターに乗り込む。



正直イトの事なんてどうでも良かったし。
関係ねーし？


態度にあからさまに出したのも
同期ならではの甘えもあったと思う。






それなのに
後から二階堂にイトが倒れたって聞いて⋯



ふと、イトの部屋で寝言のように苦しかったって言って涙を流したイトの顔を思い出した。



オレの事で自分の事思い出しちまったか？って。




・・・そんなトラウマになる程辛い事だったのか？





別れてから何年経ってんだよ？




倒れるって⋯
今のオレよりも辛い事があって別れたのかな？なんて考えて心が痛い。




それでもオレが出来ることはないから。



二階堂にイトをなんとかしてやれってハッパかけて車を発進させた。

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