君のその手に ３

１２６ 北山side ページ31

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今日はありがとね？ってグラスを合わせてくるイトの顔⋯



目尻が赤く腫れてたけどここに入った時とは正反対のすっきりした顔をしてて良かったじゃんって。






「崎本部長、いい男だな。」



「でしょ？あんなカッコイイ人、いないと思う。」



「すげー男に惚れられたんだな、イト。」



まあねー、奥さんいたけどね。なんて自嘲して笑うイト。




「だいたいいい男は結婚してんだよね。」



「⋯そんな事ねーだろ？オレ独身だし？」



「自分で言っちゃうの？北山は自分の恋愛こじらせたからだよ。」



「言うねぇー。藤ヶ谷は？あいつだってまだ独身じゃん？」



「⋯藤ヶ谷は彼女いるじゃん。もうすぐなんじゃない？」



「それもそっかー。まぁ、おまえの彼氏の二階堂は残るべくして残ってるかな。」




「あ、失礼！タカシはまだ若いからまだまだ優良物件なんですぅー。」




どこが？！ってからかい気味に言うオレにほっぺたをぷっくり膨らませるイト。




⋯久々だな、こんな感じ。



いつからだ？こんな風にイトと話せなくなったのは。




やっぱりこいつとはこうしてくだらない事であーだこーだ言ってんのが一番しっくりくるわ。




そう思ってんのに⋯




「桐谷部長の事、引き摺ってんでしょ？」



･･･やっぱり土足で踏み込んでくんだよ、イトは。



「あぁ、当たり前だろ？そんな簡単に行かねーよ。」



もうこの際だ。
イトの弱い所も全部見てしまった分、オレも特別隠す事なんてなんもない気してくる。




「⋯ちゃんとお別れ、出来たの？」



「⋯した。ちゃんと。」



⋯そう。良かったね？って俯いて、息を吐いてる。




「おまえ、オレが本社出てった後気分悪くなったんだって？悪かったな。オレのせいだろ？」



「北山のせいって言うか、デジャブよね。自分の時の事、思い出しちゃったの。」



「⋯もう、嫌な思い出なくなったじゃん。」



「⋯うん。ほんとの意味でちゃんと別れられた気がする、今日。」









長すぎるだろ。



それだけの月日を、イトはどんな思いで過ごして来たんだろう。そう思うと目の前の細っこいイトが儚く見えて堪らなかった。




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