君のその手に

３７ 北山side ページ37

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「北山さんっ、あそこの魚、見えます？！」


「⋯うまそーだな。あれ。」


「そういう発想ですか？」





オレを見て可笑しそうに笑う相沢。



不思議なもんで体の関係を断ち切ると決めただけで
なんの気負いなく相沢と接する事が出来る。



何だかんだ言ってこれ以上本気になられたら面倒、とか
麗香さんに見せつけてやる、とか、
そういう思惑が無くなると普通に可愛い後輩だ。




ふと下のガラスから視線を上げると
もう1隻の船が見える。



二階堂とイト、藤ヶ谷が楽しそうにはしゃいでるのが良く見える。




昨日、オレと相沢が同じ部屋に入るのを目の当たりにして
今度こそ完璧にオレに幻滅したであろうイトと二階堂。



また皆で集まって飲める事なんてもうないのかもな。



そう考えると大切な何かを失った気がして心に風が吹いたけど⋯






オレの一番大切なものは麗香さん。




麗香さんさえいれば他は何もいらないから
同期や後輩を失う事はそれほど重要な事じゃない。


そう自分に言い聞かせた。




でも⋯




イトの笑ってる顔見るとなんだかほっとするわ。



⋯そういや、こっち来てあんま話してねーな。



元カレにも大事にされて
後輩に本気で想いを寄せられるイトは、やっぱりそれだけの魅力のある女なんだろな、って改めて思う。






「伊藤さんですか？」





オレの視線の先を見てる相沢。





「あいつ、両手に男はべらせていいご身分だよな。」



じっと見てた事がバレてなんだかバツが悪い。
茶化すようにそう言うオレに




「北山さんの好きな人は伊藤さんなのかな？って思ってました。」


「イト？⋯それはハズレだわ。」





イトの押しが強かっただけに
オレの方が想ってるって思われてるなんて意外だ。




「⋯ずっと伊藤さんに嫉妬してました、私。」


「⋯見当違いだよ。」




そうですかね？って悲しそうに笑う相沢の髪の毛が海風になびいた。

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