君のその手に

１６ 北山side ページ16

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それにしてもイトが入社当時、藤ヶ谷を振ってまで不倫に走ったとはな。



あんな爽やか系の癖に裏でやる事大胆だわ。







⋯いや、違う。








本気だったんだ。その人の事。





藤ヶ谷を振ってまでその人と一緒にいたいと思える程。




何に対しても一生懸命なイトの事だ。
きっと回り見えなくなるくらい好きになったんだ。







⋯今のオレみたいに。







でもイトは女の子だし今のオレより相当若い頃の話だろ？



いっぱい傷ついたに違いないんだ。



その時のイトの心情を思うといたたまれなかった。



オレはいい。
好きでやってんだ。



男だし、結婚なんてしなくたって構わないし。



どこのどいつだ？
イトの事弄んだんじゃねーだろな？
なんて見当違いの所にも腹が立ってくるし。





⋯オレが言うなってな。



はぁーー。



なんだか当時のイトの気持ち考えるとやり切れなくてため息が出る。




⋯今の自分と重ねてんのか？




そんなんじゃない。
オレは麗香さんと会えるだけでも幸せだよ。
例え全部が手に入らなくても。









・







「ミツ、ちょっといい？」



そんな事考えてたら後ろから二階堂に呼び止められた。
振り向くとこいつも仏頂面。







⋯今日はオレ、散々攻められる日みたいだ。







「昨日、高見志乃と会ってたの見た。」




⋯っつか見て欲しくない奴ばっかに目撃され過ぎじゃね？




ほんっとだりーわ。



面倒くさくて声も出ねぇオレに







「イトちゃん。傷付いた顔してたぞ？」


「⋯で？」


「ミツはイトちゃんの事何とも思ってないの？」





どいつもこいつもなんなんだよ？いい加減にしてくれ。





「なんとも思ってねーよ」




オレの言葉に多少睨みながら近付いてくる二階堂。






「⋯じゃあ、オレ本気出してい？」




へえ。こいつこんな男の顔もすんだ。





二階堂が明らかにイトを気に入ってんのは見て取れたけど⋯






「⋯オレは関係ねーだろ。勝手にやれ。」





いちいちオレに確認すんなって。




⋯まぁ、イトがこいつに落ちる所なんて想像もつかねぇけどな。






「じゃあ、イトちゃんはオレが貰う。」





⋯だからなんでそれをオレに宣言すんだ？





呆れて笑うオレにまだ戦闘態勢の二階堂。





頑張れよ、と肩を叩いて仕事に戻った。

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