君のその手に

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・





「じゃあ、藤ヶ谷も。あいつも誘ってこ？」





えーーー。





「⋯いいよ⋯」


「わかりやすいな、おまえ。」




ブブって笑ってる。
わかりやすいなら私の気持ち汲んでくれたっていいのに。




「藤ヶ谷はオレから誘っとくからさ。」




ニヤって笑って
じゃな！って先に行かれた。




あー。
同じフロア行くんだから一緒に行きたかったのに⋯




新人研修以来の本社勤務に緊張してた私は
同じ課に北山がいるって聞いて心底ホッとしてた。



北山とは入社してすぐ仲良くなって
気も合うしなんでも言いたい事言い合って来た仲。
研修でドジやって落ち込んでる私の事もよく励ましてくれた。



だから北山がいれば頑張れるって気合い入れて出勤した本社一日目⋯








⋯びっくりした。
ほんとに同じ人？って。



そりゃ相当久しぶりではあったけど
あの可愛かった北山がこんなに男らしくなってるなんて。



顔つきもすっかり大人の男で
どこか憂いを帯びてるその色気に釘付けになった。






＿＿＿＿好き





本能でそう感じて



自分の気持ちに気付いてからは
まるで寄生虫のように北山に張り付いてる。



恋愛において駆け引きや計算なんて皆無な私は
周りが呆れる程北山に夢中だ。








・







「A。」





社内で私の事を下の名前で呼ぶ人なんて一人しかいない。




「⋯やめてよ。苗字で呼んで。」


「あ、わり。つい癖だな。」




しまったしまった、みたいな顔してるけど
多分、絶対なんとも思ってないこの人。




同じく同期の藤ヶ谷。
随分前に別れた元彼だ。





「今日北山と三人で飲みに行くんだろ？悪いな、邪魔者が入るけど。」


「ほんとだよ。断ってくれたらいいのに」






元彼には厳しい私。




くっくって喉を鳴らしながら可笑しそうに笑う所⋯好きだったんだけどな。





「いいじゃん。オレだって久々おまえらと飲みたいし。前いた支社の話しも聞かせてよ？」




いいけどさ。




ぷくーって、頬を膨らます私に
わ、その顔ひでーな、って笑いながら人差し指で膨らんだほっぺを潰して後でな、って去ってった。



本社勤務の別の課の藤ヶ谷。



今はこんなに気軽に話せるけど
正直同じ課じゃなくて良かったな、って安堵した。

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