君のその手に

１ 北山side ページ1

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「帰らなきゃ。」





事が終わるなりさっさと服を来て帰り支度を始める麗香さん。




いつもの事だけど胸が痛む。




こんな夜に家に帰るだけなのに
化粧直しまでして
旦那の為にそこまですんの？って面白くない。






「じゃあね、宏光」






何事も無かったようにベットで寝てるオレを覗き込んできて思わずその手を掴んだ。





「⋯今日は帰んないでよ？」




⋯ほら、そんな顔する。
明らかに困らせてる。



わかってるけど言いたくなんだよ。





「うっそー。」




内心ため息を付きながら愛しい人の手を離した。



ふわっとオレの頭に手を触れて
また来るね？って一言言い残して帰ってった。






はぁーーー。






今度は本気のため息をつく。




いつまでこんな事すんだよ？
でも好きなんだ。
やめられない。




麗香さんの気だるい香りに身を包んでうずくまって寝た。








・









「おはよ！」


「おーす」


「わっ、朝からテンションひっく！」


「⋯朝からテンションたっか。」





同期の伊藤A。通称、イト。




最近他所の支店から
この本社の同じ課に配属されて来て
久しぶりの再会だった。






「え？北山？すごく男前になってるっ。」






開口一番の挨拶がこれ。



悪いけどオレは昔から男前だっつの。






「入社当時は女の子みたいに可愛かったのにぃー」




だとよ。
なんだそれ？



でも久しぶりに会うイトだって
随分大人びたよな。



まぁ、そっか。



入社してから年一くらいしか顔合わす機会なかったから当然だ。




⋯言動は変わらねぇけど。



そこがなんだかホッとしてこいつの憎めない所だ。






・





「ねね？今日こそは飲みに行こ？」


「⋯あー、今日早く終われるかわかんねー」


「明日休みじゃん！ちょっとくらい遅くなったっていいでしょ？」





久々に再会したかと思いきや
思いっきりオレに好意を寄せてきてるらしい。



ガンガン来られて若干引くけど悪い気はしない。



イトとは新人研修でもずっと一緒だったし
その頃まだ学生気分が抜けなかったオレらは
研修先のホテルでよく飲み明かしたまま研修に参加したりしてよく上司に怒られた。



変わらないイト見てると
楽しかった青春時代の頃を思い出して一緒にいるのは嫌じゃない。



⋯ハチャメチャに楽しくて
悩み事なんてちっぽけで
明るい未来を信じて疑ってなかったあの頃。




＿＿＿＿＿今、オレは何をやってんだ⋯？

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