04 - 9月 ut side ページ4
「はい、お疲れ様〜。気つけてな〜」
夜10時。今日も長かった。
最後の生徒を見送って、ネクタイを緩めて。俺は机に項垂れた。
「あぁんもう疲れた〜。タバコタバコ〜。」
「ちょ、大先生ここで吸うなよ、絶対トントンうるさいから」
「わかっとるがな、言うてるだけやわぁ」
ふっと肩の力が抜けた一同は、先程までの元気が嘘のように重い雰囲気の中残りの仕事を片付けていた。
会話がないわけじゃない。しかしどこか重いこの雰囲気は生徒には見せられたもんじゃない。
項垂れた自分への絡みが止む。
「ほな、帰りますわ〜。あとよろしく〜。」
「えっ大先生帰んの？？仕事は？？？」
「ふふん。終わらしましたー。」
「ありえへん…、あっ！分かったぞ！！お前これから女に会うんやろ！！やからはよ帰るんや！！」
シッマの言葉は真だ。
だからこそ俺はその言葉に返すことなく、「じゃ！」と言い残して塾を出る。無言の肯定ってやつだ。
声の存在した室内を出ると、辺りはしんと静まっていた。まるで別世界に来たみたいに、空間は区別されている。
「もう9月やってのに、全然暑いやん…」
疲労故か、独り言まで呟いてしまう始末。
さー。今日はユリやったかカレンやったか、花の名前の女のとこやったな。
確か花の名前ーずはどっちも料理出来たてな。
久しぶりに食べることになるであろう、他人の手作りのご飯に少し胸を踊らせながら、配車していたタクシーに乗り込んだ。
_______今の俺はもう大先生なんて呼ばれるほどのもんじゃない。
誰かは言った。
_______ただの狂った人だよ。
「あーあ、大先生が実はヘビースモーカーで、女癖えぐほど悪いって知ったらA、きっと泣いてまうやろな。」
俺たまにしか出勤せんけど、お前らこんな大先生よう週一以上で見れるなあ。きしょくてよう出来ひん。」
呆然と彼の出ていった扉を見詰めながら、ゾムの言葉にシャオロンが返す。
_______そう。
彼女が、貴女が愛してやまない彼。
タバコの匂いがしなくて、そんで女性に一途な彼。
実は、ほんとうの顔は全く逆。ヘビースモーカーで、女は取っかえ引っ変え。
塾の時に匂いがしないのは、出勤4時間前タバコを吸わずに消臭スプレーをこれでもかとふりかけ、どうしても吸いたくなったら外でこっそり電子タバコを嗜んでいるから。
これが、貴女の、彼女の知らない彼の真実。
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作者名：まめくろ | 作成日時：2020年10月8日 19時
