【歌,い,手】音ノ葉

#29 bygone days ページ30

Aside


それから保健室に行って、そこであいつらからの虐めが発覚して、先生も色々あって変わった。


話しかけられはしないけど、虐めが終わって本当に安心した。


渉もいてくれるし‥‥あ、そういえば渉が、友達の坂田くんを紹介してくれた。


今は呼び捨てで呼ぶくらい仲良しになった。


そんな幸せな日々が、ずっと続く。


そう思っていた。


‥‥長くは続かないのだ。幸せというものは。


いつからか、渉がよく寂しそうな顔をするようになった。まるで、かぐや姫みたいに。何かに思いを馳せるように。


私は、そんな渉の変化に気づけなかった。


そして、それから数ヵ月が立った。その頃から音ノ葉が流行り始めた。その日、渉は来なかった。


｢えー、浦田が転校になった｣

｢‥‥え、わ、渉‥‥！｣


先生からの一言を聞いて、私は教室を飛び出した。


走った。走った。


｢わたる、わたる！わたる‥‥っ！｣


ひたすら呼んだ。渉の家に着いた。


渉は‥‥やっぱり居なかった。


｢わたる‥‥なにか、いってくれても｣


よかったじゃん。そんな私の呟きは消えて無くなった。


流れる涙を拭いながら、私は自分の家に向かった。学校にどんな顔をして行けばいいか分からなくなったから。


今なら、家には誰も居ないし丁度いいや。


そう思って足を進める。家に着いて、ポストを確認した。


何故か知らないけど、そうしないといけない気がして。


手を突っ込んでみると、何も無かった。手を引き抜くと、一切れの紙がひらひらと靴の上に落ちた。


見るとそこには、


『ごめんね』


と渉の字で書いてあった。


私は、思った。


｢謝るのは‥‥私の方じゃんか｣


渉の変化に気づけなかった。


ごめんなさい。ごめんなさい‥‥！


私が気づけていたら‥‥！


ずっとずっと前の記憶が、私の心をがんじがらめにしていた。


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