家族ゲーム Episode 0 Part 2 (ページ39)

今日:19 hit、昨日:0 hit、合計:9,872 hit

第87話「恐怖」ページ39

吉本「この国自体が間違ってるんだから、俺が間違ってるとは限らないだろ。
　毎日事件や事故が絶えないこんな時代に、真っ当な教育なんて通じるわけないんだよ」
麻友「勝手なこと言わないでよ、国の教育だとかそんなの間違ってるわけないじゃない！」
吉本「ハッハハハ！本当にそう思ってるのか？
　考えることを放棄して、周りの意見に流されてるだけじゃないのか？」
そう言って吉本は麻友を睨みつける。

全く理解できていない様子の麻友を、鼻で笑った。
吉本「だったら歴史の授業を例にとってみよう。
　人類の誕生から始めて、俺達に身近で重要なはずの近代史は
　何故か三学期に駆け足で終わらせる。
　百年も経っていない首相の暗殺事件でさえ、教科書ではたった数行しか語られない。
　どんな背景があって、どんな思いがあって殺されたのか
　本来はそういう事を学ぶべきなんじゃないのか？
　でも、誰もそれをおかしいとは思わない。
　なぜならそんな詰め込み式の教育でも、社会がそれなりに機能していたからだ。
　だがその歪みはアイデンティティの喪失として現れた。」
ゆっくりと椅子から立ち上がり、麻友に少しずつ詰め寄っていく。

吉本「自分のルーツを曖昧にしか理解できていない俺達は
　自分に自信が持てなくなり、闘う事を恐れて
　他人と同調するようになった。
　メディアに踊らされて一方的な意見で物事をくくりたがるのが、その最たる例だ！
　俺達はいつの間にか個性を奪われて
　誰かに依存しなければ生きていけない骨抜きにされてるんだよ！」
麻友「何言ってるの？そんな話、私たちに関係ないから！」
吉本「あるんだよ、関係あるんだよ！！」
家庭教師は麻友の頭を右手で強引に掴んだ。

吉本「そんな教育を受けて平和ボケに浸かっているお前らみたいなのがいるから…
　俺が生まれたんだ…。
　お前らみたいなのがいるから！
　無意識のうちに…、悪意だと感じない悪意で！
　汚れ無き弱者を追い詰めてるんだ…」
麻友の視界に彼の左手が入った。
その手は、とてつもなく震えていた。
彼の息遣いも、荒くなっている。

吉本は彼女を突き飛ばすと、息を整えた。
吉本「いいか、俺は“吉本荒野”だ。
　これからも、それに変わることはない。
　もしもこれ以上俺のことを調べるようだったら、本当にお前のこと消すぞ…」
最後の警告を彼女に告げ、彼は部屋から出て行った。