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さて、一体どうして自分がこの資料に関心を持つ保証があるのだろう。
Aが首をかしげて居れば、不意に男が問いを投げ掛けたのに
ついに困惑した顔つきを見せる彼女である。
傍らに居る颯太と目を合わせるが、話を聞いていた彼も難しそうな顔をしていた。
「その二つはもう君の物だ、俺に返してくれなくとも構わない」
──もし興味が湧かずにそれを捨てられてしまっても、仕方がないだろう。
そう話を切り上げ、椅子の背もたれに掛けられていたマントを羽織り
近くに纏められていた荷物を手にし、どうやら男は早々と屋敷を出て行く様子。
「ともかく、助けてくれて有難う。本当に世話になった」
「あ、あの! でも……これは貴方の物、貴方の──夢なんじゃ」
きっと資料もペンダントも、男にとって余程大切な物なのだとAは思った。
それを、意識を失っていた所を偶然に助けた
初対面の、お互いに名前も知らないような相手に簡単に手渡せてしまうものか。
動揺させられたまま言えば、言われた男は扉のドアノブに掛けた手を止め
こちらを振り返り、何故だか切なげに微笑む。
「俺だけの物ではないからな」
Aに返すと、男は未だに困惑を残す彼女を後目に扉を開き、静かに立ち去る。
廊下のフローリングの床を歩く足音が小さくなっていくのを
どこか遠くに聞きながら、男の見送りも忘れた颯太とAは思考に耽った。
「──“俺だけの物ではない”……?」
「…………どういう事なの……」
呟く以上にどうしようもなく、机の上に置いたペンダントを見つめる二人。
ペンダントは窓から差し込む僅かな太陽の光を反射し、淡く輝いていた。
そして手元に残された、たった一枚の何か、機械関係の資料。
「(……あの人は。微かにお父様の面影を感じるあの人は、誰……?)」
ふと浮かんだその疑問に、Aは一つヒントを提示されれば
すぐにでも答えを打ち出せそうな、そんな懐かしい心地を覚えて居た。
赤い髪も、そういえば目覚めた事で見えたあの──自分と同じ空色に似た瞳の色も。
見るに、恐らく自分達より幾らか年上に見えるが、それにすら親しみが湧くような。
だが全く掴めないのだ、あの男は一体何者なのかと。
まるで初対面と思えない人だ、なのに自身はこんなにも動揺を抑えられずに居る。
Aは今、自分がこの資料を手にしているのが酷く愚かな事であるように思えた。
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フェイル(プロフ) - ゆーふぉー(DS)さん» 彼が生まれた家庭は決して悪くはなかった筈ですが、結果的には父の諦観や母の夫への執着が崩壊を招きましたね……。Fshは舞台やキャラ設定を一から作っているオリジナル作品なので、そう言っていただけるとは思わず天にも昇るほど嬉しいです! 本当に有難うございます;; (2017年7月19日 1時) (レス) id: de67700d03 (このIDを非表示/違反報告)
ゆーふぉー(DS) - フェイルさん» 凪斗様キター!家庭環境、世間様が大好きな精神的虐待のネタになりそう…フェイルさんの文章がすごくさらさらと読めて、楽に読み進められるので偶に他シリーズやFshなども読み返させていただいてまして…そのなかでもFshの世界観がすごくすきです!((突然の告白 (2017年7月17日 0時) (レス) id: efac798cd6 (このIDを非表示/違反報告)
フェイル(プロフ) - ゆーふぉー(DS)さん» 許嫁の件は、あの物語自体すぐに終わってしまったのであまり脈絡のない話だったかなあと今更ながら首を捻っています;; でもあれで本作の夢主が誰のもとに向かうのかという指標にはなったかもしれません。どのキャラでも、創作キャラに関心をもってくださり嬉しいです! (2017年6月10日 15時) (レス) id: de67700d03 (このIDを非表示/違反報告)
ゆーふぉー(DS) - 自分でもよく分かって無いのですが、少なくとも“Fsh”が終わるころには凪斗様信者()でしたね!((キリッ 許婚云々の話が出てきたり目が光に弱い事を明かすシーンがあったりした最後の方は発狂してました((追懐 (2017年6月2日 0時) (レス) id: efac798cd6 (このIDを非表示/違反報告)
フェイル(プロフ) - ゆーふぉー(DS)さん» お久しぶりです、コメント有難うございます! 凪斗押しだったとは……! 本当はポンと本編を出したかったのですが、想定していたより長々としそうだったので埋め合わせで前日譚を作ってしまいました。オリジナル作品ですが楽しみにしてくださって本当に嬉しいです;;;; (2017年5月27日 20時) (レス) id: de67700d03 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:フェイル | 作成日時:2017年4月7日 20時