【０】遠望の風音 [ｶﾉﾝ] ＊Prequel＊

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そうだ、そもそも会ったとしても記憶のないA達には俺がわからないのだろう。



「(…………何だよ、これ……)」



ただ一つの真実を得た瞬間にあらゆる物事が、俺の望みが、悪循環に陥った。

サルバシオンの前で跪いた俺の視界には、地面の緑しか映らない。
馬鹿な──俺達が夢を目指す事で見たかった景色は、こんなものではなかった筈だ。

俺はどうしてもあの子と共に空を見る事は叶わないのか?
落胆する俺の背に、長が再び言葉を投げかける。



「しかし凛空、主は運が良かったのやもしれぬ。
その小冊子には、このサルバシオンについての事が書かれておるのだ」

「……サルバシオンの事が……?」


「小冊子を手掛けた者は、こう考えたのだ。前世の世界で最後に希望を与えた
サルバシオンが、今世でもリーフとリメイン人の間での架け橋になるに違いないと」

「…………こいつが、あの世界の最後に、希望を……」



俺はあの世界で、世界の最後を迎える前に命を落とした。
だからサルバシオンがどう、当時の人々に最後の希望を与えたのか知らない。

だが、やはり俺達が懲りずに“空”を夢見たのは、やはり間違いではなかったのか。
サルバシオンがある事で、人々が与えられた希望──。



「(──そうか……きっとリメイン人は、あの世界の最後に“空”を見上げたんだ)」



俺達は、この空間より外界で誕生し日々を送る人々とは滅多に接触出来ないし
逆に向こうからこちらの空間へ踏み込む事も許されない。

……本来、前世の記憶は今世に持ち込むものではないからなのだろう。

ならば、何故この世界で俺達は以前の記憶を引き継がされたのか?
わからないが、恐らく鍵はこのサルバシオンにある。だからこそ尚更俺は望んだ。



「(俺は、リメイン人に会いたいんじゃない。他でもない“彼等”に会いたいだけだ)」



サルバシオンが、俺達が出会うための懸け橋になる──。

だとしたら、これを作り上げるきっかけとなった一人である
唯一のリーフの俺が、こんな所でただ待っている訳にはいかないんだ。



「…………長。このサルバシオンの設計図を返してくれ」

「なに、サルバシオンの資料を?」

「──このサルバシオンも、その資料も。俺の……“俺達”の物だ」



俺だからこそ、彼等に、Aに伝えられる何かがある筈。
サルバシオンの存在を知る俺が、希望を捨てて……諦めてはいけない。





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