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ただ、父と母の間には誰にも割り込ませない心があるのだと。
俺が生まれたのは、二人の愛情が成した結果に過ぎないのだと。
この両親が子供にまで向ける思いを持ち合わせた存在ではないのだと
漠然と、子供ながらにそう脳裏で理解していたはずなのに、俺は叫んだ。
それは、後に親父の死を知らされ、自らも後を追おうとする母さんに対する一声。
きっと酷く顔を歪めさせているだろう俺の最後の叫びに対し、
俺の姿を見つめる母さんは妙に落ち着いた微笑みを浮かべていた。
…………何も、返事は無かった。
〜・〜・〜
「おはようございます、凪斗様」
「…………まだ居たのか」
目が覚めてベッドから降り、洗面所で顔を洗いリビングに出ると
さてこれは約一週間前からだったか、見慣れたか見慣れないかの老人の姿があった。
別にその男が俺の祖父だとか親代わりだとか、そういう関係にある訳ではない。
寧ろ殆ど無関係だ。“ある”と言えば、俺が仕事の関係で偶然此奴の命を救った事が
あったくらい──というか、それも俺自身は無自覚な事だったので訳としては弱い。
とは言えその一件以来、この老人はこちらが何度言っても聞かない事がある。
「私は貴方様に救われた身ですので、凪斗様にお仕えさせていただきたく──」
「その話はくどい程聞いた」
「──これは失礼致しました」
俺が呆れ交じりに返せば、姿勢正しく深く頭を下げられた。
燕尾服を慣れた様子で着こなす此奴は、鼻につく性質でもなく物腰柔らかな男。
しかし生憎だが、俺は自身以外の人間を信頼するつもりは端からない。
だから始めの内は何度も“帰れ”と出て行くように言っていたのだが
これが見た目の割に頑固で、却ってこちらが面倒になり言うのを止めている惨状だ。
「お前がどれだけ言葉を連ねようが、俺は人を雇った覚えはない」
「御安心ください。此方も、雇われた覚えはありません」
「……何故そうも俺に固執するんだ」
俺は、この老輩に言った筈。“救われた身だ”と何度も口にする間に、たった一度。
だが確かに告げた筈だ。この老人も、老人の身であっても俺の言葉を理解していた。
結果的に命を救ったことになったとはいえ、それは仕事の一環で生じた
偶然の賜物に過ぎないのだと。だから俺も、老人も気にする話ではないのだと。
「私は凪斗様に、残り僅かな一生をかけてご恩を返したいと願うのみでございます」
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フェイル(プロフ) - ゆーふぉー(DS)さん» 彼が生まれた家庭は決して悪くはなかった筈ですが、結果的には父の諦観や母の夫への執着が崩壊を招きましたね……。Fshは舞台やキャラ設定を一から作っているオリジナル作品なので、そう言っていただけるとは思わず天にも昇るほど嬉しいです! 本当に有難うございます;; (2017年7月19日 1時) (レス) id: de67700d03 (このIDを非表示/違反報告)
ゆーふぉー(DS) - フェイルさん» 凪斗様キター!家庭環境、世間様が大好きな精神的虐待のネタになりそう…フェイルさんの文章がすごくさらさらと読めて、楽に読み進められるので偶に他シリーズやFshなども読み返させていただいてまして…そのなかでもFshの世界観がすごくすきです!((突然の告白 (2017年7月17日 0時) (レス) id: efac798cd6 (このIDを非表示/違反報告)
フェイル(プロフ) - ゆーふぉー(DS)さん» 許嫁の件は、あの物語自体すぐに終わってしまったのであまり脈絡のない話だったかなあと今更ながら首を捻っています;; でもあれで本作の夢主が誰のもとに向かうのかという指標にはなったかもしれません。どのキャラでも、創作キャラに関心をもってくださり嬉しいです! (2017年6月10日 15時) (レス) id: de67700d03 (このIDを非表示/違反報告)
ゆーふぉー(DS) - 自分でもよく分かって無いのですが、少なくとも“Fsh”が終わるころには凪斗様信者()でしたね!((キリッ 許婚云々の話が出てきたり目が光に弱い事を明かすシーンがあったりした最後の方は発狂してました((追懐 (2017年6月2日 0時) (レス) id: efac798cd6 (このIDを非表示/違反報告)
フェイル(プロフ) - ゆーふぉー(DS)さん» お久しぶりです、コメント有難うございます! 凪斗押しだったとは……! 本当はポンと本編を出したかったのですが、想定していたより長々としそうだったので埋め合わせで前日譚を作ってしまいました。オリジナル作品ですが楽しみにしてくださって本当に嬉しいです;;;; (2017年5月27日 20時) (レス) id: de67700d03 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:フェイル | 作成日時:2017年4月7日 20時