【０】遠望の風音 [ｶﾉﾝ] ＊Prequel＊

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兄は今日の朝方、この家に依頼を持って来たお客さんを相手に外出していた。
父がこの朝からずっと不在のままだった為だ。



「やっぱり白羽も一緒について来れば良かったんじゃないか? そうすれば
探偵の感覚の一つくらい掴んで、お前にも出来るってところを証明出来る筈だ」

「でも父さんは将来、兄さんに家督を譲るつもりで居るじゃないか。
そんな所へ僕が割り入ったら、父さんにどれほど怒られるか……」

「ああ、まあ……だが、俺も探偵業は性に合わないと思っているしな。
そのおかげで、既にこっ酷い御叱りを受けている訳だが……」



──もし父が跡継ぎは僕でも構わないと言うのなら、
僕は喜んで立派な探偵となる為に知識も経験も積み上げていくだろう。

しかし父が求めているのは一刻も早く担い手となれる自分の子供、つまり兄だった。
その父の思考に対し僕は自信を失い、今は知識のみが積み重なるばかりだ。

片やこの通り、実のところ兄には探偵業に対する関心がさほど無い。
要するに、この一家の跡継ぎの話はどうも上手く先に進んでいないのである。



「“造形師”になる夢、まだ諦めて居ないんだね」

「まあな。──クリスタルは人の生活から切っても切り離せない資源。
そのクリスタルを精製する造形師なら、仕事が無くなる心配をしなくて良い」



また、クリスタルの販売なら探偵のように客の機嫌を窺わなくても良い。
精製の腕が良ければ良いほど、生産量にこそ差は出るが、質は変わらないからだ。

時に熟練者なら非常に強力なクリスタルの精製も適うが
一般人が使うクリスタルにそのような力は必要がない訳で。


強いて言えば、街々を守っている“守護団体”は強力なクリスタルを求めるので
よほど稼ぎたければかなりの腕が必要にはなる。

しかし、至って普通に生活を送る事が出来ればそれで構わないのなら
売り先は一般客が相手で十分に事足りるだろう。



「それに、物を作るって作業は嫌いじゃない。だから造形師が良いんだ」

「父さんに反対されて居ても?」

「どんなに頑なに反対されようが怒鳴られようが、絶対に諦めないさ。
自分が先へ進むための翼を持つのは自分だけだ、なら俺の未来は俺自身が決める」



そう迷いなく語る僕の兄は、やはり強い意思を持った人だと思った。

もしこの人が探偵になる決意の出来た人だったなら
将来、探偵の下に名を轟かせるのは兄であるに違いないのに──……。



「──白羽はなりたいか、探偵に?」

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