【０】遠望の風音 [ｶﾉﾝ] ＊Prequel＊

＋ ページ45

颯太の問いに頷く父は、少しだけクリスタルに関する知識を教えてくださいます。
──厳密には、クリスタルとして使える原石はその大きさで決まっている。

鉱山の中でクリスタルは常に成長し続け、既定の大きさと色味になれば採掘。
だから、幾ら欲しくても一気に原石を採掘してしまう訳にはいかないのだとか。


それから、父は更に奥へ進もうと私達を先へと促しました。

少し歩を進めれば、間もなく少し狭めの通路から開けた空間に出て──
ただ、それを思う前に私は……颯太も、目の前の見慣れない姿を凝視していました。



「──これがこの鉱山に住む竜だ。ほら、随分と大人しいだろう?」

「こ、これが竜……!」



既に何度も会っているからか、慣れた様子で竜に近づく父の後に恐る恐る
私も颯太も続き、ついにその鱗に手を触れました。竜は身動きしません。



「本当に人間慣れしているんですね……そういえば、この竜には名前は無いの?」

「そうだな。一つ考えてみるか」

「何か浮かびますか?」

「ふむ……コイツは人懐っこいから……“コロ”ってとこか」



──真剣な顔をして答えるので、冗談を言われている気がしません。

きっと父本人も冗談のつもりではなかったのでしょう。
私も颯太も答えを待ったは良いものの、どう反応するべきかわかりませんでした。



「…………それは……」

「ちょっと……」

「何だ、二人して微妙な顔つきだな……そんなに駄目だったか?」

「そんな人懐っこいからって、ペットに名付けるんじゃないんですから!
もっと他にあるじゃないですか、例えばベリル鉱山に居る竜だから──」



なんて、自分で作った会話の流れとはいえ結局、私が考え出す始末。

この竜が男性か女性かはわからないけれど
やっぱり竜なんですから、カッコいい名前が良いですよね。



「そうね、“ベルクニル”なんてどうですか?」

「成程、それらしいですね。良いと思います、俺は名付けは不得手ですし……」



そして颯太が言いかけた直後、竜もまた小さく顎を上げて高く唸った。



「どうやら竜も気に入ったようだ、名を貰えて嬉しいらしい。良かったな」



微笑む父に、私も嬉しくなって大きく頷きを返しました。
──私は、毎日のように会う事の出来ない親でだって、こんなお父様が大好きです。

例え、どんなに私と父が似て居ないからといって
“お前とこの人が親子な訳がない”と誰かに豪語されてしまったとしても。





──
────
──────

◇颯然と切った風◇→←＋

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す