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第53話 かさねとるい ページ31

山の奥の拓けた場所。月明かりが差し込むそこはどこか神秘的で、木々にはきらきらと糸が張り巡らされている。
そこには大きな丸い岩が埋まっていて、その上に真っ白な女が座っていた。


「ふっふふふふふ……貴方達に倒せるかしら……」


笑い声が辺りに響き、ぎり、ぎぃ、と硬い音がする。真っ白の指先から伸びるのは白い糸。五本の指にそれぞれ一本ずつ、それが両方。
糸は炭治郎と伊之助と対峙している鬼殺隊の隊員に繋がれている。どうやら両手を使って糸を引き、その隊員を操っている様だった。


「私に近づけば近づくほど、糸は太く強くなり、お人形も強くなるのよ……?」


ぎぃぎぃと糸の軋んだ音を響かせながら、女は得意げに糸を引く。そんな彼女に母さん、と声がかかった。
女の瞳が見開かれ、反射的に声のする方へ顔を向ける。そこには先程炭治郎と伊之助、それにAが出会った男の子が一人、木々が生い茂る薄暗闇に立っていた。二人で揃いの着物に、揃いの髪色、揃いの瞳。
家族の様だった。

ヒッ、と息を吸い込んだのは、女の方。


「勝てるよねぇ……?」


女の瞳が震え、顔から血の気が引く。吐き出す息すら震えていて、空気が一瞬で変わった気さえした。
勝てるよね、と聞かれただけだ。母さんと呼ばれたからには彼女はこの男の子の母親なのだろうが、その我が子に勝てるよね、と、ただそう聞かれただけ。男の子が口にした声色は随分と冷たく圧があるものだったが、自分の子に変わりはないだろう。
なのにどうして、彼女はこんなに恐怖の色を表に出しているのか。


「累……」

「ふふ、ふふふふふ」


やっと舌に乗った言葉は男の子の名前だった。その直後に、まるで鈴でも転がすかの様な小さな笑い声が累と呼ばれた彼の正反対の位置から聞こえ、母親はまたも反射的に振り向いた。


「勝てるかだなんて、おかしなことを聞くのね累。大丈夫よ。だって母さんだもの。母さんはそうあらねばならないもの」

「あ、あ……」


女の子だった。髪を肩まで切り揃えた、おかっぱの女の子。自分と同じ色彩を持ったその子は、片手に小さな布切れをぐるぐる巻きにして縛ったものを抱いている。


「ちょっと時間がかかりすぎじゃない?」


母親の息が細くなり、零れ落ちる声からは恐怖が滲んでいる。あまりの恐怖に頭がくらくらした。

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ユズヒ(プロフ) - nogiruka03161さん» コメントありがとうございます! 絶世の美少女とはなんと嬉しいお言葉。夢主が聞いたらドヤ顔で調子に乗りますね。その認識で大丈夫です!それ故に言葉遣いや所々の残念さが目立つというか際立つというか玉に瑕……みたいな感じです! (2019年10月7日 23時) (レス) id: 717d8ad01f (このIDを非表示/違反報告)
nogiruka03161(プロフ) - 前から思っていたのですが、夢主の美少女レベルはどれくらいなんでしょうか。主要人物は、禰豆子ちゃん、胡蝶姉妹、カナヲ、蜜璃ちゃん、鬼側なら堕姫と、美少女や美人が多いですよね。善逸の過去の発言や鬼に容姿で目をつけられるあたり絶世の美少女と認識してます。 (2019年10月7日 21時) (レス) id: 5ed8b171b4 (このIDを非表示/違反報告)
ユズヒ(プロフ) - 夜美さん» ありがとうございます!個人的に善逸との絡みは私も書くの好きなのでそう言って頂けるととても嬉しいです!鴉は焼き鳥になりました。 (2019年10月5日 19時) (レス) id: 717d8ad01f (このIDを非表示/違反報告)
夜美 - 巫女ちゃんと善逸の絡み好き。善逸と残ってあげるの今まで見たことないからおぉこれいいなって思った、デス。(ちょっと鴉風)あと善逸の優しさと巫女ちゃんの赤面好きそれをからかう鴉も (2019年10月5日 9時) (携帯から) (レス) id: 17b8cf45ac (このIDを非表示/違反報告)
ユズヒ(プロフ) - 夜美さん» ありがとうございます!手紙だとあいつは大体おちょくってくる奴です。そうなんですよ!絶対可愛いなと私も書きながら思いまして!!絶対!!可愛い!!! (2019年9月22日 10時) (レス) id: 717d8ad01f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ユズヒ | 作者ホームページ:   
作成日時:2019年9月16日 16時

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