震える手で ページ27
.夏油side
チリン、とドアに付けられたベルが鳴る。色はくすんでしまっていて黄土色になってしまっている。内側は綺麗な金色のままである。それがどうも面白かった。
珈琲の不味い喫茶店に来た。ここに来るのは二度目。悟が猛反発するからもう来ないと思っていた。でも私がこの場所を選んだ。
何故かと言われれば分からない。強いて言うならば印象強い場所だったから。悟と私とAにとって此処は忘れられない場所になった。と思う。
｢夏油くんお久しぶり。酷い顔してる｣
親でも殺したの？
黒い双眸がこちらを見つめる。目を、奥深くに眠る思想を覗き込む。表情は柔らかい。いつものAだった。明るくて自分勝手なA。花が咲くように笑う。
それがどうしようもなく恐ろしい。
Aの言葉に私は石にされてしまったように動けなくなる。瞬きも出来なければ、指先を動かすことすら出来ない。
｢まだ、だ｣
答えるつもりはなかった。私の意思に反して口が開く。Aの操り人形にでもされてしまったようだった。
もっとも、彼女にそんな力はない。ただ不思議と口が動いてしまったのだろう。彼女に隠し事をしたくないという思いもあるのかもしれない。
｢それは良かったよ｣
ちょっとごめんね、と私に断って携帯電話を操作し始めた。私はAが待ってくれと言うならばいつまでも待っただろうと思う。このまま此処に立ち尽くして死んでしまうのも悪くないと思った程だった。
しかし彼女の指はスムーズに動き、おそらく的確にボタンを押していく。たまに難しそうに眉をひそめながらも、手早く済ませようとしてくれているらしかった。
私は、この空間がずっと続けばいいと思う。私は彼女が私の思想を否定するのなら、私は実行しないと決めていた。それでも私はAが私のことを否定することは無いと知っていた。
信頼していたから、私は彼女に言う機会が来なければいいと思った。私が呼び出し、告げる機会を作ったというのに。
もし彼女が言う神が居たのならば罵ってもらいたかった。お前は愚か者なのだから何も考えずに呪霊を祓って過ごせばいいのだ。と言われたのならばそれに従っても良かった。
しかし神はいないのだ。いや飽きてしまったのかもしれない。
神が人間に飽きてしまったから、私のようなノアの方舟よりも酷い選民主義を掲げる者が国を混乱に招くのかもしれない。
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夏炉(プロフ) - 最後までお付き合い頂きありがとうございました！！私も全力で私好みの作品を作ろうと力を尽くしたのでそう言っていただけると書いてよかったという気持ちになります。閲覧頂きありがとうございました！！ (2020年12月30日 17時) (
レス) id: 2b945b799d (このIDを非表示/違反報告)
希乃夏(プロフ) - 完結おめでとうございます！！最後まで楽しませていただきました！！終わり方も私の性癖にぶっ刺さりました！！素晴らしい作品を誠にありがとうございます！！ (2020年12月30日 14時) (レス) id: 1e5270c5a5 (このIDを非表示/違反報告)
夏炉(プロフ) - お空の蒼い月さん» 閲覧頂きありがとうございます！！対比は私が好きにかけた所なのでそう言って貰えるととても嬉しいです！！もう少しだけ続きますのでぜひお付き合い下さい！！ (2020年12月30日 1時) (レス) id: 2b945b799d (このIDを非表示/違反報告)
お空の蒼い月(プロフ) - とても面白かったです…！表現の仕方や移り変わりや対比がすべて美しくて…もうこの作品を読んだあとだと、私の少ない語彙力で素晴らしさを表現できません。素敵な作品をありがとうございます。 (2020年12月30日 0時) (レス) id: 94a6e4722e (このIDを非表示/違反報告)
夏炉(プロフ) - 希乃夏さん» コメントありがとうございます！！お褒め頂いて大変嬉しいです！！更新頑張りますのでよろしくお願いします！！ (2020年12月20日 19時) (レス) id: 2b945b799d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夏炉 | 作成日時：2020年12月15日 20時
