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俺は席と席の間に置かれたアーヤの手をそっと握った。
途端にアーヤは声を出しそうになったか、反対の手で口元を押さえた。
そして信じられない面持ちで俺を見る。
慌てて手を離そうとするから、逃げないよう素早く堅く、恋人繋ぎにし直した。
薄暗い場内でも分かるくらいアーヤの顔は赤くなり、手も熱くなっていく。
俺は反対の肘を付いて知らん顔。
けれど胸中は、してやったりとほくそ笑む。
目、覚めたでしょ?
約束なんだから怒らないでくれるかな。
曲が終わるまで手を離さなかった俺。
もちろん演奏になんて集中できる訳はなく、謂わばBGM状態。
アーヤに至っては最後まで俯いて、演奏はもちろん、楽器の音すら耳に入っていなかったようだ。
かわいそうかな?とも思ったが、今日の俺は自分でも可笑しいほどワガママ。
今だけはエゴに支配されていたかった。
アーヤに触れてみたかった……
満たされる時間はあっという間に過ぎ、曲が終われば休憩時間になった。
皆一斉に席を立って会場から出て行くのを見ると、アーヤは慌てて手を離した。
「もう、黒木君ズルい。」
抗議の目を向ける。
「そう?」
なに食わぬ顔で答えると、「お手洗いに行ってくる!」逃げるように席を立った。
アーヤの反応が可愛くて、笑いが込み上げてくる。
今まで手を繋いできた女の子達とは全然違う。
こんなに青臭く、子供みたいな感情に何故だかひどく癒され、やっぱりアーヤは特別なんだと、改めて認識させられる。
どこかに置き忘れた年相応のくすぐったい気持ちに、日頃の“俺らしさ”を少し恨めしく思う。
どうして俺は“普通”ではいられないんだろう……
ステージ上の楽器の入れ替わりを眺めながら、出口が見えるのに辿り着けない迷路を連想していた。
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千祥(プロフ) - りぃあ♪#さん» コメ及び、読んで下さりありがとうございました(*^^*) (2020年4月7日 21時) (レス) id: 1ff717e023 (このIDを非表示/違反報告)
りぃあ♪# - とっても面白いです!更新楽しみにしています! (2020年4月6日 19時) (レス) id: 77648adcbf (このIDを非表示/違反報告)
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