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背中に伝わる襖の冷たさ。
そこからは部屋の中の暗く淀んだ空気までもが染み出していた。
部屋の中から声が聴こえてくる。
「当時…父上は近衛歩兵一聯隊長、陸軍中佐」
淡々とした声色。
その声の発信源は尾形だった。
「近衛は天皇に直結する軍ですからね…世間体を考えれば浅草の芸者とその子供は疎ましく感じたでしょう」
まったく、自分勝手なことであるがな。
「本妻との間に男児が生まれると、父親は母の元にぱったり来なくなったと、祖母から聞きました。祖母は母とまだ赤ん坊の俺を、茨城の実家に連れ戻したそうです」
「母はよく、あんこう鍋を作ってくれました。『西のふぐに東のあんこう』ってね。あんこうは安く手に入りました。地元の庶民的な鍋です。俺も好きで食べてました」
「でもね…それが毎日なんですよ」
数段、尾形の声が低まったように感じる。
「あんこうがとれる冬の時期はね。母は毎日、あんこう鍋を作ろうとするんです」
「父親が美味しいと言ってくれたから、また食べに来てくれると信じて」
「頭がおかしくなってたんです」
その一言に、自身の母の姿を思い出す。
父に向ける火照った顔に、狂気じみた笑い声。
私は無言でこめかみを抑えた。
「俺は祖父の古い銃を持ち出して、畑へ行って鳥を撃った。鶏肉があれば、あんこう鍋を母は作らないと思って……」
「でもいくら鳥を撃っても、あんこう鍋を作り続けるんです」
どれだけ獲物をとっても、誰も褒めてくれない。
こちらを向いてくれない。
考えるのは愛する父のことばかり。
どこか、重なる部分を感じた。
「だから俺は祖父母が留守の時、殺鼠剤をあんこう鍋に入れて母に食べさせた」
殺鼠剤は、人が食べれば死ぬ。
幼い尾形は母を自身の手で殺したのだ。
だが、初めて知るその事実に、私が驚くことは無かった。
『ああ、そうなのか』と心の中でつぶやく程度だ。
なぜなら私も実の父を自ら手にかけているのだから。
同じようなことを尾形がやっていて、それを咎めるのも変な話だろう。
「『少しでも母に対する愛情が残っていれば、父親は葬式に来てくれるだろう』『母は最後に愛した人に会えるだろう』と……でも」
最後の一言で、先の言葉が分かってしまう。
「——あなたは来なかった」
『あなた』。そう尾形は言った。
この部屋で何が起きているのか、そこにいるのが誰なのか、私は知っている。
私は部屋の中を襖の間からこっそりと覗く。
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プスメラウィッチ(プロフ) - 私は、尾形百之助を一票します。 (4月1日 23時) (
レス) id: b10205217f (このIDを非表示/違反報告)
おほしさま - 見守るセミさん» コメントありがとうございます！！そうなんですよ！！！！もう、みんな良いんですよ！！！！だからめちゃ迷うんですよね！！！！(ˉ ˘ ˉ; ) (3月27日 23時) (レス) id: 14120fce3f (このIDを非表示/違反報告)
見守るセミ - んぬムゥ尊い。マジで尊い。あどうもセミです。おがっちゃんもいいしすぎもっちゃんでもいいどちらを取っても幸せです。ワシはおがっちゃんも好きなんですが、すぎもっちゃんが最推しです。あぁ〜でも、月島さんも捨てがたい、、、 (3月27日 16時) (レス) @page31 id: d5e2d1caf3 (このIDを非表示/違反報告)
おほしさま - エクスタシーさん» うわぁーーーー！！！！！！ほんとだぁーーー！！！！！うわ、マジでごめんなさい。今まで全く気が付かなかった…。ご指摘下さり誠にありがとうございます！！！大感謝です！！ｕ ′̥̥̥ ⌑ ‵̥̥̥ ｕ (3月26日 20時) (レス) id: 14120fce3f (このIDを非表示/違反報告)
エクスタシー - 杉本× 杉元○ (3月25日 22時) (レス) @page31 id: 9a0b80f385 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：おほしさま | 作成日時：2024年3月7日 2時
