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ギィー
バタリ
コツ、コツという足音が私の耳に届いた。
せっかく眠れそうだったんだがな。
私は体を起こし、ベットの上に座る。
目を閉じ、もう一度音を探した。
コツ、コツ
やはり気のせいではないようだ。
部屋の壁から足音が響いている。
軽い音だから、恐らくは女。
壁の中に通路でもあるんだろうか。
だとしたら、この屋敷の異常なまでの入り組んだつくりの理由も説明がつく。
そして、そんな仕掛けを客が知っているはずは無い。
ということは、足音の主は女将だろう。
だが、隠し通路なんか使って一体何を。
私は目を細め、考える。
ずっと引っかかっていた。
昼間女将が私の性別を言い当てることが出来たわけが。
『目を養ってきた』と、女将はそういった。
だが、いくらそれを養ったとはいえ、軍服を着た奴を女だと、瞬時に判断できるものだろうか？
女ではないかと疑問に思ったとしても、普通ならば一度聞いてみるものでは無いか？
つまり、女将には確信があったわけだ。私は女であるという確信が。
ん？まて。
引っかかると言えばあのコブ男。
大柄な体格に額のコブ、変態で手練の柔道家。
どこかで……
「あッ！『不敗の牛山』だッ！」
ドンドンドンドンドン！
私が叫ぶと同時に大きく戸を叩く音がした。
私の部屋では無い。だが、近い。
隣か、そのまた隣……
って、
「アシㇼパたちの部屋だッ！」
部屋を飛び出すと、予想通りアシㇼパと杉本の部屋の前に立つ白石の姿が目に入った。
「白石！」
「ッ、黒木ちゃん！」
焦り顔の白石が私に気づく。
「杉本も聞いてるか⁈あの女将は刺青の囚人だ！前に話しただろ⁈患者を監 禁して肉をどうこうしてた元医者がいたってよお！ひとまず脱出するぞ！建物に罠がある！ここは奴の巣穴の中だ！」
「なるほど。私の性別を見抜けたのは目を養っていたからなんかじゃなく、人間の肉を捌きまくってたからって訳だ！性別による肉付きの違いを、自分の目を通して知っていたから！」
私は部屋の中にいるであろう囚人に聞こえるよう声を張り上げながら言った。
女将、家永が今夜狙っていたのはアシㇼパのはずだ。
私たちの中から獲物を狩るとしたらあの子しかいない。
あいつもアシㇼパの純粋で穢れを知らぬ美しい瞳に魅入られたのだろう。
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 2時
