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「すいませーん！誰かいますか？」
杉本が大声で店の人を呼ぶ。
私たちは結局鉄砲店の店主に紹介された『札幌世界ホテル』に訪れていた。
やがて一人の女が階段をパタパタと降りてきた。
「いらっしゃいませ。女将の家永です」
……たしかに綺麗な人だな。
細身な体に、ふっくらとした唇から発せられる軽やかで高い綺麗な声。
ぱっちりと開いた瞼と長いまつ毛が印象的だ。
「シライシヨシタケです。独身で彼女はいません。付き合ったら一途で情熱的です」
目を煌めかせて女将の手を握る白石に私と杉本は冷めた視線を送った。
いや、女将絶対引いてるだろ。
女将が私たちを部屋へと案内してくれる。
「随分と入り組んだ作りのホテルだな」
ほんと、廊下が曲がりくねってる。
これじゃ迷子になりそうだな。
「古かったので私が引き継いでからも改築に改築を重ねまして」
「家永さん下のお名前は」
白石が頬を染めながら尋ねると、女将は
「カノと申します」
ときちんと答えてあげていた。
優しいな。
それを聞いた白石が言った
「素敵な名前だ」
という言葉にはゾッとした。
気色悪すぎた。
アシㇼパ、杉本は当然ながら同室。
白石、キロランケが同室で案内されたので、少し不思議に思った私は二人きりになった女将に聞いてみた。
「なあ」
「はい、なんでしょう」
「どうして私を一人部屋で案内したんだ？普通こちらに聞かないか？」
すると、どうやら苦情に聞こえてしまったようで、眉を下げされてしまった。
「あら、申し訳ございません。『女性』はお一人部屋の方が良いかと思ったのですが……」
「！なぜ私が女だとわかった？」
これは驚きだ。
私は今も外套を頭に被っている。
顔はよく見えていないはずだ。
「接客業をやっていますから、そういう目は養っているつもりです」
にこりと微笑む女将。
なんだろうか。
見破った理由はそれだけでは無い気がする。
「さあ、お客様のお部屋はこちらでございます。ごゆっくりどうぞ」
バタリ
扉が閉じられる。
部屋を見渡し目に付くものと言えば、ベットとその横にある小さな机、壁にかけられているいくつかの絵画だけだった。
私はベットに身体を投げる。
久々の柔らかい布団に、一気に眠気が押し寄せてきた。
……一度寝てしまうか。
瞼を閉じると、私の意識は暗闇へと一気に落ちていった。
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 2時
