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先程アシㇼパたちの入っていった家に近づくと、声が聞こえてきた。
「旭川には第七師団の本部がある」
軍にいたころ何度も聞いた声だ。
「そうだ。第七師団本部に鶴見中尉のこと密告したらどうかな？」
今度はここ最近何度も聞いている声。
白石だ。
「本部には鶴見中尉の息のかかった人間もいるぜ」
私は白石の問に答えながら皆が集まっている部屋に顔を出した。
「なっ、黒木上等兵殿⁈なぜあなたがここに⁈」
上等兵か。久しぶりに言われたな。
「久しいな。谷垣源次郎一等卒」
私はわざと皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「あ、そっか。二人は知り合いなんだったな」
杉本が今思い出したように言った。
「伝えといてくれていれば楽だったんだがな」
私の言葉に「しょうがないだろ。忘れてたんだから」と杉本が頬を膨らませる。
可愛くねえー。
「あなたも、軍を裏切ったのですか？」
谷垣が、こちらの様子を伺うようにして言った。
なぜこんなに警戒しているんだ？
その疑問の答えはすぐに出た。
谷垣の八巻の下に隠されているであろう、銃創のおかげで。
「人聞きの悪い言い方をするな。言っておくが、私は尾形とはつるんでない。造反組には入っていなかった」
谷垣は私が尾形たち造反組に入っていると思っていたのだろう。
恐らく尾形と谷垣は、いや、二階堂もか。
三人は二対一でやり合ったのだろう。だから尾形はあの時、私と会ったのだ。
二階堂は見当たらなかったから、鶴見中尉に上手いこと言いくるめられて引き戻された可能性が高いな。
「そうなのですか？俺はてっきり……」
「まあ、今はそんなことどうでもいい」
私は話に区切りを付け、話を始める。
「話を戻すが、旭川の本部には聯隊長の淀川中佐がいる。鶴見中尉は情報将校として、二○三高地の無謀な正面突破で部下を死なせたくないと、淀川中佐に作戦の欠陥を何度も指摘したが、すべて揉み消された。それ以来、淀川中佐は鶴見中尉に逆らえなくなった」
なんて、これは表向き。
実際のところはやや違っているだろうが。
あの死神は、一体どこまで先を見透かしているんだ。
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 2時
