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「……尾形の野郎」
怒りを込めて、奴の名を呟いた。
「尾形？」
聞き馴染みのない名前を聞いた杉本が思わずと言ったように口にした。
「尾形というのはお前が崖から川に落とした第七師団の上等兵の名だ。あいつは一昨日陸軍病院を抜け出した。そして私は尾形の監視という名目でここへ来たんだ。ところが、どうやら尾行されていたようでな。軽い乱闘になって、これはその時やられた。そこに尾形もいた。首飾りを盗めるとしたらあいつしかいねぇ」
杉本を睨むようにして口早に語った。
杉本は何の関係もないのだから、あたるようなことはしては行けない。これじゃ完全な八つ当たりだ。
分かっていても、怒りは収まるところを知らず、どんどんと不満が湧いてくる。
「その首飾りって、大切なものだったの？」
杉本の言葉に、首飾りに入っている写真を思い浮かべる。
そこにはノチウの顔があった。
愛らしい、もう二度と見ることの出来ないその顔を思い出す材料は、もうあれしかない。
「大切だよ。今この世に存在する物の中で一番て言えるくらいには」
杉本が黙り込んでしまう。
いい加減八つ当たりはやめにしなければ。
私は深呼吸をして、怒りを吐き出す。
「まぁ、今ここでうじうじしていても仕方ないからな。アシㇼパと、確か海岸には白石もいただろ。どこいったんだ」
私の空気が少し明るくなったことに安堵したのか、杉本も初めの調子に戻った。
「二人は今、イセポを捕りに…あぁ、イセポってのは」
「兎だろ」
「え、」
「……私はどうなるんだ。私もそのうさぎと同じように、殺されるのかな」
そう言って微笑むと、それとは対照的に、杉本は顔を引き締めた。
「なんで、女のアンタが軍人になってんだ。どうしてアイヌ語を知ってる。どうして二度も俺を助けた。……アンタ、一体何者だ」
「その話はイセポを食べながらにした方がいい」
「アシㇼパさん……」
小屋の中に、一人の少女が入ってきた。
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 2時
