旅路 ページ29
「うちの農耕馬だ。畑を耕す時期までには帰ってこよう」
私の後ろで馬に跨り、言うキロランケ。
そう、わたしの『後ろで』だ。
……なぜ私がキロランケとなのだ。
いや、まぁ、アシㇼパが杉本となのは当たり前だし、白石は……
「よし、行こうか、網走へ……！」
「俺の馬、小さいんだけど」
……あれだしな。
「悪いなシライシ、道産子の小さいのしかいなかった」
ん？いやちょっと待てよ。
「なあ、私が道産子に乗るから、白石はキロランケとこの馬に乗れよ」
「そんなに俺とは嫌か」
キロランケが少々落ち込んだように言う。
「いや、別に嫌では無いが……」
不服と言うだけで。
「じゃあ、キロランケと白石が変われば？」
杉本の提案を受け入れそうになってしまう。
しかし、
「白石は臭いから無理」
「ひどい！」
傷付いているようだが、本当のことなので仕方がない。
「我慢しろ、黒木」
「そうだぞ、わがまま言うな」
「ぐぬぬ……」
アシㇼパや杉本に言われては言葉が詰まってしまうでは無いか。
「っ白石だって、大きい馬の方が良いだろ⁈」
私が白石に言うと
「いやー、俺は別にどっちでもいいけどー」
と曖昧な答えが返ってきた。
はっきりしろよ！
「なぁにー？黒木ちゃんもしかして照れてんのー？」
「はぁー？」
何を言うのだこのハゲは。
「私は軍人だぜ。あんなに暑苦しい男所帯にいたんだ。今更惚れた腫れたなんてない」
「じゃあ、これでもいいよね」
こいつ……
「それに、男が二人も乗っては馬に負担が……」
「わかった。行こう」
アシㇼパの言葉に私は即答した。
この子達のためならこのくらい我慢しなくては。
「嘘でしょ……」
なんて、杉本や白石の声が聞こえたが私は気にも止めなかった。
「ひとまずアシㇼパさんの村に寄っていくぞ。長い旅になる」
確か、今アシㇼパのコタンには谷垣がいるんだよな。
……尾形のこと、ちょっと聞いてみるか。
馬の蹄が鳴り響く。
長い旅路が始まった。
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 2時
