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「シンナキサラ！」
キロランケの家へと入ると、無駄にでかい子供の声に出迎えられた。
……うるさい。
「俺の家族だ」
キロランケが優しく落ち着いた声で言った。
「俺の子供たちはこの土地で生まれ、アイヌとして生きていく。アイヌの金塊を奪ったこと、俺は同じ国から来た人間として責任を感じる。お前達が相応の取り分を望むのは構わないが残りは返すべきだ」
真剣な声色と口調で、キロランケは続ける。
「最後まで見届けたい」
この男……
「はぁーー」
私は夜空を見上げ、大きくため息をついた。
満天に浮かぶ星々を瞼で隠し、あの子の顔を思い浮かべる。
しかしそれははっきりと映し出されることはなく、ぼんやりと滲んでいた。
首元に延ばした手が、虚空を切る。
思わず眉間にシワがよってしまう。
あぁ、くそが……
「白石、ソッチは女性用の便所だぞ」
木の影から覗くようにして声のした方を見る。
……杉本と白石か。
「あの男、連れて行って大丈夫なのか？」
「別にお前のことだって信用してねぇけど」
うそつけ。
私は杉本の言葉に心の中で突っ込んだ。
あの三人は、ちゃんとお互いを信頼しあっている。
自分たちはそれに気づいていないんだろうが。
「キロランケはのっぺらぼうのこと、まだ何か隠している気がする」
隠しているだろうな。
のっぺらぼうだけではなく、自分のことについても。
「それに、アシㇼパさんが懐くならそれほどわるいやつじゃないんだろう？」
「はあー」
私は木陰で頭を抱え、またため息をついた。
甘い。こいつは本っ当に甘い。
「アシㇼパが懐いているのは、キロランケじゃなく、自分の父親にだろう」
チセへと戻っていく杉本たちの背中を見送りながら、小さく呟いた。
「信頼するやつは自分で見定めなければ、後々後悔するぜ」
一人で発したその言葉は誰に拾われることも無く、暗い森へと消えていった。
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 2時
