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小蝶辺……？
「……！どうしてその名前を……私の和名だ…！その名前を知っているのは死んだ母と父だけなのに」
「アシㇼパさんの和名…？」
訝しげな表情で言う杉元。
なにか心当たりでもあるのだろうか。
「網走監獄で起きたこと……俺は既に知っていた。のっぺらぼうは自分の外の仲間に囚人が接触できるヒントを与えていた。『小樽にいる小蝶辺明日子』。のっぺらぼうはアシㇼパに金塊を託そうとしていたのだ」
思考が、追いつかない。
だって、つまりそれが表す結論は、
「のっぺらぼうはアシㇼパの父親だ」
それを聞いて思い出す。
私が初めて鶴見中尉から金塊の話をされた時に言われたこと。
『のっぺらぼうは
——アイヌだ』
隣に座るアシㇼパに視線を配る。
「アチャが……アイヌを殺して金塊を奪うなんて、そんなの嘘だ」
正に顔面蒼白。
それはそうなる。
アシㇼパはよく父親に懐いていたようだし、相当な衝撃だろう。
「なんであんたはアシㇼパさんの和名を知っている」
その言葉に今度は杉本の顔を見る。
思わず少し口角が上がった。
……怖い顔。
「俺はアシㇼパの父と一緒に日本へ来た」
だから、親しかった自分には教えてくれたということなのだろう。
「金塊が見つかればのっぺらぼうが死刑になってアシㇼパさんは父親の仇が取れると思っていたが、見つかってしまえばアシㇼパさんの父親が死刑になるということなのか」
「関係ねえよ。俺たちがほかより先に見つけてしまえばいいことだろ？どかっといっぺんに換金しない限りバレねえって」
「いや、私たちが争奪戦から降りれば金塊が見つかったことは直ぐにバレる。金塊が見つかれば用済みののっぺらぼうは死刑執行。今度は私たちが他の奴らから狙われることになる」
杉本、白石、私が一気に言葉を並べた。
「信じない。自分の目で確かめるまでは。私はのっぺらぼうに会いにいく」
そう言ったアシㇼパからは先程までの弱々しさは感じられず、強い決意が滲んでいる。
「網走は地の果てだぜ」
「でも本当にのっぺらぼうがアシㇼパさんの父親なら囚人を見つけなくたって、直接本人から金塊のありかを聞ける」
「行くのはいいが……天下の網走監獄最要注意人物にどうやって会うんだよ」
「面会なんてできない。厳重な監獄だぞ……忍び込むのは不可能だ。どうやって本人に会うんだ？」
あぁ、なんだ。適任がいるじゃねぇか。
「脱獄王」
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 2時
