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「大きな皮が取れるぞ。これ一枚で服が一着作れる」
「え？魚の皮で服を作るの？」
アシㇼパと杉本の会話を黙って聞いていると「おい」とキロランケに呼ばれてしまった。
仕方なく、彼と、その隣に毛布にくるまって座っている白石のもとへ歩み寄った。
「なんだ？」
「お前、名前は？」
「……黒木だ」
「黒木だな。ほら。吸ってみろ。アイヌの男は初対面の挨拶で必ず煙草を喫煙し合うんだ」
そう言って私に先程まで自分が吸っていた煙草を差し出した。
ん？こいつ今アイヌの『男は』って言ったよな？
「いや、私はだな……」
「なんだ、煙草ははじめてか？」
「そうじゃなくて……」
私はなんと説明したら良いのか分からず、口ごもってしまう。
「あー！違う、違う！黒木ちゃんは男じゃなくて、女の子なの！」
白石！
だが、白石の言葉も虚しく砕ける。
「は？そんなわけないだろ。なぁ？」
失礼なやつだな。
……仕方ないか。
私がゆっくりと被っていたフードをとると、同時にキロランケの目が丸く見開かれた。
「これでも分かって貰えないか？」
少し芝居じみた口調で言うと、キロランケは慌てたように言葉を発した。
「いや、すまん！軍服を着ていたからてっきり、」
「別に構わん。女だと気づかれないためにこれを被っているんだからな。だが、私は正真正銘のれっきとした軍人だぜ。
……もしかしたらどこかであっているかもな」
もしかしたらではない。確実にどこかであっているんだ。
その場が戦場ではなかったと確かめるためにあんなことを言ってみたのだ。
「さあ、記憶にある限りではあったことないと思うけどなぁ」
「そうだな。わたしもだ」
やはりそうだ。
これはずっと昔の記憶なのだ。
……早く思い出さなければ。
アシㇼパにもキロランケにもあったことがあるのなら、もしかすると、アシㇼパの父にもあっていたのかもしれない。
そうだとすれば、思い出したとき、何か手がかりが見つかるはずだ。
私が女だと知ったキロランケは今度は白石に煙草をふかせようとしている。
「俺煙草吸わないんだけどなあ〜」
そう言いながらもさしだされたものを受け取ると、口をつけすぅと吸い込む。
気管を通るなれない煙にむせたのか、白石が咳き込む。
その後ろからはとった巨大イトウをどう調理しようか考える声が聞こえてきた。
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作者名：おほしさま | 作成日時：2023年12月29日 2時
